私は年に10回近く海外出張をし、世界中の拠点を回ります。現地では朝から晩までみっちり会議です。現地の社長や営業部長などから話を聞き、現場の動きや今抱えている悩みなどの情報を、どんどんインプットするのです。本社の取締役会だけで報告を受けていたら、フィルターがかかり、たとえるなら泥水が真水になっていることもある。それで経営判断をしたら、足元をすくわれますよね。他人のフィルターを通さず、自分の目で現場を見て情報を集めれば、自然と直感力は磨かれていきます。

2003年、欧州が記録的な猛暑に見舞われたときのことです。大勢の人が熱中症で亡くなり、9月になってもエアコンの注文が生産量の3倍ぐらいに増え続けていました。大幅な増産をしたいのはやまやまですが、売れ残って在庫を抱えるリスクもあるので、現地のトップは悩んでいました。

私も現地を訪れ、目の前で起きた現象を驚きの目で見ていました。そのときに肌で感じたのが、「欧州は空調の夜明けを迎えている」ということでした。それまでエアコンを全然知らなかった人々が、猛暑によって「エアコンってこんなに快適なものだったのか」と実感した。こうなったら彼らがエアコンを手放せなくなるのは必至です。私は「これはいける」と直感し、増産に踏み切りました。このときの決断の結果、今では欧州市場でトップシェアを誇るようになりました。

先見性や洞察力を持って他社より半歩先に決断し、実行に移すために重要になってくるのが、リーダーのバランス感覚です。経営者は大きく分けて、ぐいぐい人を引っ張っていく集権型リーダーと、個人の力を重視し、自由奔放に仕事をさせていく分権型リーダーがあると思いますが、私はどちらか片方の能力に偏っていてはダメだと思います。状況に応じてバランスを上手に取り、意思決定できるのが変革型のリーダーだと思うのです。