ヒートポンプやインバーター、冷媒制御といった同社が得意とする環境技術を武器に、小型ルームエアコンから大型空調機、そして本格暖房という強力なラインアップで、ライバルの米国キャリア社を抜き世界一の空調メーカーへ――。

2008年度、9期ぶりの減収、15期ぶりの減益を記録
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2008年度、9期ぶりの減収、15期ぶりの減益を記録

そんな夢が近づいていた矢先、リーマン・ショックが起きた。世界同時不況と急激な円高で、8年連続増収増益、07年度の売上高1兆2911億円、当期利益748億円という過去最高業績から一転、08年度、09年度は2年連続で減収減益に転落してしまったのだ。井上にとってもまさに悪夢だったに違いない。が、今年1月、新年役員懇談会で記者の前に現れた井上は冷静かつ前向きだった。

「我々の認識では最悪期は脱した。今年は増収増益、V字回復して過去最高益を達成したい」と宣言したのだ。

現在、世界トップを走るキャリア社との売上高(空調)の差は1月時点で、ざっと200億~300億円。ライバルの背中はもうくっきりと見えているという。

<strong>ダイキン工業 代表取締役社長兼COO 岡野幸義</strong>●1940年、旧満州・大連生まれ。64年大阪市立大学卒業後、ダイキン工業入社。管理部長を経て、94年取締役就任。常務取締役、専務取締役を経て、2002年代表取締役副社長、04年より現職。
ダイキン工業 代表取締役社長兼COO 岡野幸義●1940年、旧満州・大連生まれ。64年大阪市立大学卒業後、ダイキン工業入社。管理部長を経て、94年取締役就任。常務取締役、専務取締役を経て、2002年代表取締役副社長、04年より現職。

逆転のカギを握るのは、唯一、高い成長を保つ中国、そして米中欧で横展開する暖房事業だ。M&A戦略で巨大化してきたキャリア社とのM&A合戦も気を抜けない。その上で、ハードの機器売りだけでなく家まるごと、ビルまるごとなど、周辺分野を組み合わせたソフトやソリューション・ビジネスを構築していく。

幅広い品揃えとソリューション機能を持つことは、新興国への進出条件にも重なる。同社が注目するブラジルやインドでは、コスト競争力に直結する事業規模を持たなければ勝ち残れないからだ。

昨年末、ブラジルに足を運んだという井上は「非常に親日的な国で感心した。14年にはワールドカップ、16年にはオリンピックという需要もある。年内に販売会社を設立したい」と意気込む。

井上が社長に就任した16年前、同社の地域別売上高のうち海外はわずか15%。しかし、いつしかグローバルの波が押し寄せ、為替などの要因も経営を大きく揺さぶるようになった。現状では、ユーロ危機のような突発的な為替変動に対応していくことは困難だ。とはいえ手をこまねいていては企業生命に関わる。

社長兼COOの岡野幸義も、「為替の影響をできる限り受けないシステムを構築していく。『地産地消』、つまり日本で売るものは日本で、中国で売るものは中国でと、販売に最も近いところで製造するのは、もはや大前提」と語る。