佐々木(大金中国投資 董事・副総経理)が中国で手応えを掴んだ日から遡ること約9年。最初に暖房に着目したのはダイキンヨーロッパ(以下、ヨーロッパ社)だった。今では売上高の6割以上が海外というダイキンで、その約3分の1を稼ぎ出すのが欧州だ。72年にベルギーに海外初の工場を設立。80年代には赤字期もあったが、地球温暖化の影響で風向きが変わる。現会長の井上が94年に社長に就任してから、欧州各国の販売代理店を次々に買収していった。

ベルギーでは社員の発案で、一戸建てを購入して社員が住み、暖房などの快適さを体験してビジネスに生かしている。

ベルギーでは社員の発案で、一戸建てを購入して社員が住み、暖房などの快適さを体験してビジネスに生かしている。

一方で、数年来の不況と冷夏に見舞われたのが01年。ベルギーで生産していたルームエアコンがタイ工場に移管されることになり、「このままでは生産するものがなくなってしまう」と現地社員たちは意気消沈していた。そんなとき、ある社員からこんな声が上がった。

「欧州は暑さより寒さが厳しい。冷房より暖房のニーズがあるのでは」

今にして思えば、この素朴な意見こそが会社の未来に影響を与える転機となった。00年からヨーロッパ社に出向し、今年4月まで同副社長を務めた冨田次郎も「欧州で従来型の日本のエアコン(による冷房・暖房)が本当に普及するのだろうか」という疑念を抱く一人だった。

欧州の夏は短い。現地では冷房は環境にも身体にも悪いというマイナスイメージが払拭しきれていなかった。冬の暖房は、CO2排出量の多い燃焼ボイラーで高温水をつくり、室内を暖める温水暖房が主流だった。

「燃焼ボイラーでは省エネに逆行してしまう。省エネ性に優れた新しい暖房商品をここで開発しよう」と冨田は考えた。

調査してみると世界の暖房・給湯市場は推定3兆円。その3分の1は欧州市場だということがわかった。