暖房だけでなく、燃焼式では従来不可能だった冷房も可能にするべく新商品のプロジェクトがスタートした。当初、ヨーロッパ社には開発に必要な冷媒制御(冷媒の圧力や温度を最適にする)技術を持ったエンジニアがおらず開発は困難を極めた。が、たまたま日本から出張できていたエンジニアを捕まえて直談判。フィールドテストを繰り返した結果、06年に「アルテルマ」の発売にこぎつけた。燃焼式暖房に比べ、CO2排出量を2分の1以下に低減できると期待される画期的な製品が欧州で生まれたのだ。
その陰には、ヨーロッパ社社長の三中政次や冨田が社員を励まし続ける姿があった。料理が得意な冨田は部下を集め、頻繁に自宅でパーティーを開いた。招待するのは直属の部下だけではない。
「一番大事なのは末端のワーカーなんですよ。彼らも集めての“ノミニュケーション”はようやりましたね」(冨田)
そんな地道なコミュニケーションによる団結力は見事に結実した。
「基本的には暖房ですが、おまけで冷房機能もつく、というコンセプトが市場に受け入れられた。08年の販売台数は前年度比3倍にも伸びました」(三中)という大ヒット商品となった。一度は閉鎖されるのではと危惧されたベルギー工場だが、今では製造の約3分の一をアルテルマ関連商品が占めるようになった。
欧州には高効率なヒートポンプ暖房機に対するインセンティブ制度があったが、08年末、EU議会で「再生可能エネルギー利用機器」に認定されたことも追い風となった。ギリシャ危機などもあり、景気の先行きは不透明だが、昨年以降、関連商品として更新需要を狙った新商品「高温水アルテルマ」、集合住宅用「メガアルテルマ」を投入し、ラインアップの充実を図っている。
「アルテルマ」は北米でも横展開している。二度撤退し、三度目の挑戦となる米国は、欧州、中国に比べると市場攻略は難しい段階にあるものの、09年に暖房専任チームを立ち上げ、需要の大きい北東・北西部への展開を図っている。(文中敬称略)