「記憶力のいい人=理解力の高い人」ではない

第2位は『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』でした。認知科学の権威である今井むつみさんが、「何回説明しても伝わらない」が起こる理由を解き明かす一冊です。

今井むつみ『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』(日経BP)

ここでは「何回説明しても伝わらない」を生み出す2つの勘違いを紹介しましょう。

1つ目の勘違いは「記憶力のいい成績優秀者は、理解力がある」。記憶力のいい人が、必ずしも高い理解力を備えているとは限りません。「この人は記憶力がよく、頭のいい人だから、なんでもすぐに理解してくれるだろう」と思い込んでいると、コミュニケーションがうまくいかない可能性があります。

2つ目の勘違いは「記憶違いは、理解が足りなくて起こっている」。私たちは、何かを覚えようとするとき、記憶できる容量を超えると、自分が持っているスキーマ(何かを考える際に裏で働いている基本的な「システム」のこと)を利用して、理解しながら記憶しようとします。その理解の仕方につられて、実際にはなかったものを記憶したと思い込んでしまうことがあるのです。記憶違いは、必ずしも理解不足によって起こるものではありません。

「言えば伝わる」を実現する「心の理論」と「メタ認知」

では、どうすれば「言えば伝わる」「言われれば理解できる」を実現できるのでしょうか。今井さんによると、「相手の立場で考える」ための「心の理論」と「メタ認知」が重要なキーワードとなります。

心の理論とは、「ある状況に置かれた他者の行動を見て、その考えを推測し、解釈する(推論する)」という心の動きのこと。他人の視点を想像する能力ともいえるでしょう。

メタ認知とは、自分自身の意思決定を客観視することです。自分の考えや行動を客観視する能力とも言い換えられます。

「何回説明しても伝わらない」が起こる理由を丁寧に解説するとともに、「言えば伝わる」「言われれば理解できる」を実現する方法を提案してくれる本書は、読者の知的好奇心を大いに刺激してくれる一冊です。