「悩ませる指導」のほうが正しいワケ

そのため、「答えを教える指導か、悩ませる指導か」という二択の答えとしては、現在はBの「悩ませる指導」のほうが正しくなってきています。

昔の「もぐら叩き」的な対策が通用した時代ならAの「答えを教える指導」で成績が上がっていたのですが、最近は生徒に「この問題をなんとか解いてみよう」と粘り強く考え抜く時間を作ってあげる、いわば「悩む練習」をする指導のほうが効果的なのです。

実際、私たちも最近の入試で出題されている「思考力を問う問題」や、自分たちで作ったその類題を生徒に解いてもらっています。

教えていて驚くのは、今の生徒はどんどん「粘り強く考える」力が落ちている、ということです。

例えば、問題を出して「1分間周りの人と考えてみよう」と言うと、30秒くらいは周りの生徒と「ああでもない」「こうでもない」と相談するのですが、多くの生徒が30秒くらいで黙ってしまいます。そして、「先生、早く答え教えてよ」と言ってくるのです。

「いや、もっと考えてみようよ」とこちらも促すのですが、生徒は「これ以上考えたって答え出ないよ」「早く答えが知りたいよ」と言ってきます。多くの生徒が、考えることよりも「答えを知ってそれを覚える」ということに慣れてしまっているのです。

悩む時間は無駄にならない

最近は、スマホでもAIでも、なんでも答えをすぐに教えてくれるようになりました。わからないことがあったらすぐにChatGPTに聞けば答えを教えてくれるようになっています。そんな状況に慣れているからか、すぐに「答え」を求めます。

一昔前であれば「ヒントください」と言ってくる生徒が多かったし、答えを言おうとすると「先生待って、もう少し考えさせて」などと言われた記憶があるのですが、今はそうではなく、「早く答え教えてよ」というスタンスになってしまっているのです。

青戸一之、西岡壱誠『家庭教師の技術』(星海社新書)

何度も言いますが、悩む時間は、無駄になるものではありません。短期的には答えを知って類似の問題にすぐに答えられるようになるほうが成績が上がるでしょうが、それだけでは頭は良くなりません。

長期的に考えると、すぐに答えを求めるのではなく、少し自分で考えて答えを出そうとすることには意味があるのです。でも、それが今の子どもたちには難しくなってしまっているというのは、とても由々しき事態だと思います。

とはいえ、「じっくり悩む」と言っても、どこかで区切りをつけてあげたほうがいいとは思います。「10分は考えてみよう」とか「5分以上考えて答えが出なかったら答えを言うね」とか、そういう指導の仕方を実践してみましょう。

まとめると、家庭教師や子どもに接する方は、ぜひ子どもに対して「あえて悩ませる」という指導をしてみてもらいたいと思います。

すぐに答えを出すのではなく、考えるためのヒントを教えてあげて、十分に悩めていない状態であればもっと悩むことを推奨する。そうして子どもの脳に良い負荷をかけてあげることで、子どもは自分の頭を良くすることができるのです。

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