60歳から始めても十分すぎる時間がある
就寝や起床の時間が一定、毎日朝食を取るなど、ライフスタイルが定まっている人ほど病気になりにくく長生きをしやすいことがわかっている。
「加えて誠実性が高い人は、設定した目標を達成していきますから『私はやればできる』という自己効力感が高く、それが幸福感に結びつきます。精神的健康は長寿に影響します」(同)
性格は半分は遺伝素因、もう半分は環境要因で決まるといわれる。30代から40代にかけて性格は固定され、それ以降はあまり変わらないそうだ。かといって自分が長寿の性格でないと思う人もガッカリする必要はない。
「調和性が高い人が要介護者になると、介護してくれる人とスムーズな関係を築きやすい。神経症傾向(不安感)も危機への備えとして適度には必要です。誰しも自分の性格で健康に役立つ面を持っていますので、バランスよく伸ばすといいでしょう」(同)
権藤教授は自身について「飲酒好きですから、誠実性は高くない」と述べつつ、「客観視」の重要性を述べる。「普通は自分が誠実性が高い、低いと意識せずに行動しているでしょう。性格を客観的に捉えることで『こうしてみようかな』と良いほうに行動が変化することが増えると思います」
さて、冒頭で「あなたは何歳まで生きたいか」と問うたが、私自身は40歳になったときに「もう十分生きた」と思った。けれども権藤教授の新著『100歳は世界をどう見ているのか』(ポプラ新書)を読み、ささやかなことを幸せに思う世界に感じ入り、元気な百寿者たちの挑戦に驚かされた。本には80歳で始めた水泳で世界記録が認定された女性や、現役ピアニスト、絵描きなど多彩な百寿者が登場する。
「老年的超越を提唱したトルンスタム教授は、高齢になると『新しい自分に出会う』という趣旨のことを話しています。人の目を気にせず、やりたいことに取り組み、隠れた才能が開花していく。開放性の高い方は60歳、70歳から新しい趣味を始め、100歳近くなって大きく実らせるんです」(増井研究員)
60歳から始めたことも百寿者になればキャリア40年。人から賞賛されるような成果がなくても、続けることが新たな自信を生み、誠実性と幸福感が高まって健康長寿につながるのだろう。そう考えると、長生きの世界は、私たちが今予想するものより楽しいものなのかもしれない。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年10月4日号)の一部を再編集したものです。