なぜ現代の日本人は長生きをしたくないか

9月16日は敬老の日。この時期、全国で長寿者を祝う行事が多い。100歳以上の長寿者(以下、百寿者)の数は1963年には全国で153人だったのが、98年に1万人を突破、昨年はなんと過去最多の約9万2000人。2007年に日本で生まれた子どもの半数が107歳より長く生きるという推計もある。

老人と介護者の笑顔
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日本が世界一の長寿社会を迎えている中、あなたは何歳まで生きたいと思うだろうか?「100年生活者研究所」が24年、国内外で「100歳まで生きたいと思いますか」との意識調査を行ったところ、「とてもそう思う」「そう思う」と答えた割合は、調査対象6カ国(日本、アメリカ、中国、フィンランド、韓国、ドイツ)の中で日本が最も少ない3割未満。最も高かったのはアメリカの66%、次いで中国65%、フィンランド58%である。

【図表】長生きが嫌な日本人

20年以上全国の百寿者を訪問し、研究を続けてきた大阪大学大学院人間科学研究科の権藤恭之教授も、同じような調査を行っている。30歳から75歳までの人に「何歳まで生きたいですか」と聞いてみたところ「100歳以上」と答えた人は1割、最も多かったのは「80歳」だったという。たしかに私を含め、現代の日本人はそこまで長生きを求めていないように感じる。

「100歳を目指さない理由の大半は『寝たきりになりたくない』『人の世話になりたくない』というもの。多くの人が健康だったらいいけれど、と思うのですね」(権藤教授)

権藤教授は研究を続ける中で「どうしたら長生きできるか」ではなく、「長生きは幸せなのか」を自身に問い続けたという。そして現時点での答えは「長生きは幸せです」と言う。

「長寿になるほど体力的、金銭的に『限られた世界』になります。でもその中で百寿者はできることを見つけようとする。朝起きたら布団の中で体を四方八方に動かして“むちゃくちゃ体操”と名付けて楽しむ人や、子どもの話し相手になることに存在意義を感じる人などがいました。また『布団の中が暖かい』など、些細なことに幸せを感じている。実際に私たちの調査でも百寿者の『主観的幸福感』は若い人たちと比較してそれほど下がっていません。長寿者にとって『自立していない=不幸』ではなく、身体機能が低いけれども幸福感が高い人が一定数存在しています」(同)

従来は「健康状態を保ち、年をとってもいろいろできることが幸せな老いにつながる」という考えが主流であったが、スウェーデンの社会学者であるラルス・トルンスタム教授が1989年、「老年的超越」という精神世界を提唱した。年齢を重ねていくと活動的でなくても幸せを感じる人たちがいるというのである。