路肩の露店にはチキンスープなどの食料缶や栄養バランス食品が積み上げられているが、ほとんどの商品に「NOT FOR SALE(非売品)」の文字が刻印されている。国連が支援のためガザ地区へ送り込んだ支援物資が、商品として有償で売られているのだ。

ある男性はフランス24の取材に応じ、「強い苛立ちを覚えます」と語る。「これらの商品は、ここで売られるべきでありません。住民に届けられるはずの人道支援物資なのです」

一方、露天商側も生活に必死だ。ある露天商は取材に対し、大した儲けにはなっていないと主張する。彼自身、闇取引業者から高額で仕入れざるを得ないためだという。それでも小麦粉1袋25キロの露店での販売価格は、700ユーロ(約11万円)にまで上昇した。平時価格の35倍に相当する金額だ。

イスラエル軍は物資強奪への対応を強化

5月には、支援物資強奪の現場が報じられた。米軍はガザ地区への輸送ルートを確保するため、3200万ドルを投じ、ガザ沿岸に浮桟橋を建設した。しかし、ゲートストーン・インスティテュートによると、この新しい浮桟橋を通じて運ばれた人道支援物資のうち、約70%が盗まれたという。国連の倉庫に搬送する途中で、物資を積んだ11台のトラックが襲撃された。

現場に居合わせた匿名の国連職員は、ロイター通信に、ガザに向かう途中で「パレスチナ人によって略奪された」と述べている。「奴らがトラックを見たのは久しぶりのことだった。トラックに乗り込んで来て、食料パッケージを持ち去っていった」と語っている。ここでのパレスチナ人は、ハマス構成員を指すとみられる。

イスラエル国防軍(IDF)は、対応を厳格化している。9月にもガザで人道支援物資を積んだトラックの略奪を武装集団が試みたが、IDFは彼らを殺害した。ニューヨーク・ポスト紙によると、IDFのギヴァティ旅団のツァバル大隊が、ラファ地域での人道回廊を確保する作戦中、武装集団がトラックを取り囲んでいるのを発見している。

刑務所から解き放たれた犯罪者たち

武装集団は車で逃走を図ったが、IDFはドローン攻撃を行い、逃走車両内の者を殺害した。さらに、車から逃げようとした別の武装集団もIDFの攻撃で殺害された。IDFは10月7日以降、ガザでの人道支援物資の略奪を繰り返し阻止している。

このような略奪により物資が届かないことに加え、治安悪化も闇市が栄える原因の一端を作っている。以前はガザ地区を実効支配するハマスの警察組織が街を巡回し、犯罪を抑制していた。だが、現在はイスラエル軍がハマス警察を攻撃対象としていることから、警察はほぼ街から姿を消している。

刑務所を管理していた刑務官たちも職務を放棄した。ニューヨーク・タイムズ紙は、「ハマスの刑務官が放棄した刑務所は今や空っぽで、重罪人が自由に歩き回っている」と報じている。自由の身となった犯罪集団の構成員たちは、団結して病院や大学の建物を襲ったり、食料や物資を積んで入ってくるトラックの車列を待ち伏せしたりする。支援物資は、住民に届かない。

砲撃で死亡したパレスチナ人の子供の遺体を運ぶ男性(写真=Saleh Najm and Anas Sharif/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons