賑わう市場は「盗品の販売所」に変わった

イスラエルからの攻撃が続くパレスチナのガザ地区で、物資不足による価格高騰が深刻化している。トマト、砂糖、鶏肉など食料品の価格は軒並み10倍前後となり、多くが失職中の市民に手が出る価格ではない。国連の支援物資は市民に届かず、闇市で高額で売りさばかれている。

2024年8月29日、ガザ地区中部のデイル・アル・バラで、自宅に戻る避難民
写真=ABACA PRESS/時事通信フォト
2024年8月29日、ガザ地区中部のデイル・アル・バラで、自宅に戻る避難民

治安悪化も深刻だ。避難中の住民が多い北部を中心に、自宅や商店などの盗難被害が相次ぐ。子供時代に愛したプレイステーションから、思い出の写真が詰まったスマホやPCまで、金目の物なら何でも盗まれる。

こうした惨状には、地区を実効支配する武装集団・ハマスとの複雑な関係がある。ハマスが支援物資を強奪しているため物資不足が深刻化しているのが、一つの側面だ。同時に、これまで街の治安を維持していたハマスの警察組織が、イスラエル軍の標的となったことで機能しなくなり、治安悪化に拍車を掛けている現状もある。

かつて華やかだったガザの市場は、イスラエルの攻撃による破壊と、その後に訪れた無法状態により、一変した。ニューヨーク・タイムズ紙が現在の状況を伝えている。

長い歴史を誇るデイル・アル・バラの市場は、かつては香辛料の香りと果物を売る声で溢れていた。今ではイスラエルの封鎖の影響で、売れる商品がほとんどない。縦横無尽に広がっていた市場は、たった一本の通りに縮小された。代わりに栄えているのが、各地で見られる盗品市場だ。通り行く群衆が訝しげに盗品の山を目にし、一部の市民が商品を物色する光景が日常の一部となった。

思い出のプレイステーションを奪われた32歳男性

民家からはトイレさえも盗み出され、ガザの泥棒市場で売られてゆく。避難後に家に戻ったり、戦闘が収まった地域に移動したりした家族たちは、こうした盗品市場で中古のトイレを購入せざるを得ない状況だ。盗まれたトイレは約100ドル(約1万4000円)で売られており、これは戦前の3倍に当たる値付けだ。

ガザの泥棒市場では、市民の思い出の物品さえ家から盗まれ、売られてゆく。詩人男性のマフムード・アル・ジャブリさんは、自分の詩集がたった5シェケル(約190円)で売られているのを見つけた。彼は、「笑いとほろ苦さの間で揺れ動いた」とニューヨーク・タイムズ紙に語る。

住民で32歳男性のアナス・アル・タワシーさんは、自宅が3度も泥棒被害に遭った。姪のパジャマや妻の鍋などが売られていないかと泥棒市場に探しに行ったが、なかでも心の底から探していたのは、カナダにいる双子の兄弟と一緒に遊んだ、思い出のプレイステーションだったという。