ネットの声はパワーエリートには届かない

言いたいことがあれば、インターネットを通じてどんどん発信したらいいと、官邸の関係者は思っているはずです。そういった発言は政策に影響がなく、大多数の国民を動かす力にもなり得ないと、彼らは思っているからです。

インターネット上の過多な情報も同じで、大局にまったく影響はないと考えています。もしも日本がアメリカ型の民主主義国家であったなら、影響が出るかもしれません。しかし、日本は根本が天皇制のシステムのままで民主主義化を行おうとする、ちぐはぐな“民本主義”の国です。国の根っこの部分が君主制で家産国家ですから、国民のどんな発言も大局にまったく影響がないのです。

つまり、国民の発言は行政の上層部にまで上がっていかずに、遮断されているということになります。そうであれば、インターネット上の声は残念ながらカエルの声と同じようなものということになります。

こうした一種の専制的な政治をやっている分には、国民の声が直接政府を動かすことはありません。現在、日本はコロナや、ウクライナ戦争、台湾海峡有事といったものによって、行政権が事実上優位になっています。そのため、今の日本は家産政治国家ともいえるような専制化した状態になっているのです。

ネットが不満を吸収することはむしろ喜ばしい

むしろ、インターネットでみなが騒いでくれるのは、政府にとっては喜ばしいことですらあります。そこで無駄なエネルギーを使ってくれれば、反抗心を持った国民が組織化された政治運動に入ってくることはなく、当然、治安もよくなり、政府にとって非常に好都合な状況となるからです。

佐藤優『佐藤優の特別講義 民主主義の危機』(Gakken)

もちろん政府は、聞く耳を持っているという態度は常に見せています。しかし、お問い合わせ用の電話番号はあるが機械音声の自動応答状態にしておいたり、メールアドレスだけ記載しておいて積極的回答をしないようにしていたりなど、十分なコンタクトをとることができない状態にしておくためのさまざまな細工を施しておくことがあります。

このように、日本では、パワーエリートと一般国民との大きな距離を生み出しているのは、インターネットによる情報量の過多という問題だけではありません。

国家の機密に深く関係する問題に関しては、一般国民があまり知らないさまざまなしくみがあって、それがパワーエリートにとってきわめて好都合に働いているというのが、日本の現状なのです。

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