国民の声を政府に届けるにはどうすればいいか。作家の佐藤優さんは「首相官邸の幹部たちにとってインターネット上の情報はノイズであり、ほとんど見ていない。不平不満をネット上で発言しても、残念ながらパワーエリートたちには届かない」という――。

※本稿は、佐藤優『佐藤優の特別講義 民主主義の危機』(Gakken)の一部を再編集したものです。

首相官邸にとってネット情報は「ノイズ」

インターネットの情報をもとに動くと、どんなことが起こるでしょう。もし政権与党がふだんからインターネット上の真偽不明な情報に振り回されていたら、国家政策を間違えてしまうでしょう。投資家があやふやな情報を信じて投資したら、大きな損益を出してしまう可能性があります。もちろん、偽情報にあえて乗っかって株価操作をする仕手戦を行うというのであれば、それは別の話ですが。

インターネットによって情報の信頼性が揺らぎ、情報過多となった現代ですが、危惧すべき最大の問題は、パワーエリートとそれ以外の人々との間で分断が起きることです。インターネットが普及したことで、情報に一喜一憂し踊っているだけの一般の人たちと、エリート層が切り離されてしまう可能性があるのです。

たとえば首相官邸の幹部はインターネットをほとんど見ていません。部下がインターネット上の情報から精査して上げてきたものだけに目を通します。官邸の中枢はネット情報を信用しておらず、ただのノイズだと思っています。

SNSのイメージ
写真=iStock.com/Andrii Yalanskyi
※写真はイメージです

重要な情報とノイズを見分けられるか

情報処理の基本はノイズと正しい情報とを見分けることです。官邸の人間にとっては、インターネット上の発言は「言いたいことがあるならば、別に好きに言わせておけばいい」というくらいのもので、気にしていないのです。

西垣通も『ネット社会の「正義」とは何か』の中で、「巨大スクリーンでつまらない映画を観てもすぐに忘れてしまうが、たった17文字の名句にふれて人生が変わることもある。両者はまったく別物である。だから、われわれをとりまく情報環境におけるデジタル・データの急激な増加が、必ずしも濃密なコミュニケーションをもたらすとは言い切れない」と指摘しています。

これは情報とノイズの違いをはっきりと示した重要な発言です。情報の重要さは量にあるのではなく、大海にある無限の情報の中から役に立つものを取捨選択して見つけ出すことにあります。その意味で、オープンソース・インテリジェンスは本当のプロでなくてはできないことなのです。