わかった気になってしまう「流暢性の錯覚」

普通の再読に、学習効果があまりないと考えられる1つの理由としては、同じ文章を2回目に読む時のほうが文章に慣れすらすら読め「わかった気になってしまう」ため、さらに理解を深めたり、覚えたりするといった深い情報処理が新しく行われにくいことが考えられます

安川康介『科学的根拠に基づく 最高の勉強法』(KADOKAWA)

このような、表面的に情報が処理しやすくなったことで、実際には内容を記憶し深く理解していないにもかかわらず、覚えた気になってしまう、理解した気になってしまう心理的な現象は、「流暢りゅうちょう性の錯覚(幻想)(The fluency illusion)」と呼ばれています

何かを学習する時には、この流暢性の錯覚に気を付けなければなりません。

僕たちの脳は、実際にはしっかり記憶して、深く理解していないのに、自分の知識や習熟度を過大評価してしまうことがあるのです。

例えば、英単語の単語帳をパラパラめくり、見覚えのある単語が並んでいるのを見て、なんとなくその意味や使い方を覚えている気になってしまう。授業中に書いたノートを見返し、見覚えがあるため、覚えて理解していると思ってしまう。そんな経験がある人も多いのではないでしょうか。

積極的に脳に負荷をかけることが大事

効果的な勉強にとって大切なのは、ある程度積極的に自分の脳に負荷をかけることだとわかっています。学習の分野では、「望ましい困難(Desirable difficulties)」と呼ばれており、『科学的根拠に基づく最高の勉強法』の後半で述べる効果的な学習法は、この「望ましい困難」を生み出す方法だとも言えます。

さまざまな学習方法の有用性について、膨大な過去の研究を調べてまとめたケント州立大学心理学部のダンロスキー教授らによる有名な報告書があります。再読に関して、ダンロスキーらの報告書では、以下のように評価されています。

「今ある科学的根拠に基づき、再読の有用性は低いと評価する」

その理由として、例えば、大学生以外ではあまり効果が検証されていないこと、再読による理解を高める効果があまり明確ではないこと、そして最も重要な点として、後述する他の学習方法と比べて効果が低いことが挙げられています。

時間をかけて教科書や参考書、英単語の本を何度も繰り返し読んでいるのになかなか覚えられない、テストの点数が伸びないといった人は注意しましょう。

もちろん、何かを「読む」という場合に、頭の中でどのように情報が処理されているのかは、人によって異なります。あとで紹介する「精緻的質問」や「自己説明」など、脳により負荷がかかる、記憶への定着や理解力を高める作業を再読に組み入れている人は、その効果も違ってくるでしょう。