認知症介護

南田さんのケアは両親だけではなかった。義実家にもまめに通っていた。

2021年2月に精神病院を退院した認知症の義母(84歳)は、以前いた施設に戻った。暴力性は鳴りをひそめ、誰かに支えてもらわないと歩けなくなっていた。

南田さんと義弟夫婦は、「あの電話攻撃から解放された!」と顔を見合わせ、心が軽くなった。5月に夫が帰国したが、コロナ禍だったためすぐには義母に会えず、面会が許されたのは帰国から1カ月後だった。

そして2023年9月。義母は誤嚥性肺炎を起こし、入院。

この時義弟一人の判断で、「中心静脈栄養カテーテル」を入れてしまう。「中心静脈栄養カテーテル」は、上大静脈など心臓近くの太い血管にカテーテルを留置し、高濃度の栄養剤を投与する生命維持法。つまり延命治療の一つだ。義母の回復を信じていた義弟は、回復のために行う医療行為だと思い、中心静脈栄養カテーテルに同意してしまったのだ。

「カテーテルは一度入れると抜いてくれる病院はほとんどないそうです。そしてカテーテルを入れていると、医療行為が必要になるので施設には戻れません。しかしカテーテルで入れるものを水分だけにしてフェードアウトしてくれる終末期病院が見つかり、10月に移りました」

転院先の病院での面談で義弟が、「施設なら面会時間に制限がないから、本当は施設で看取りたい」と相談したところ、「それならカテーテルを抜きましょう」と主治医から提案された。施設に戻すことを諦めていた南田さんたちは喜んだ。

11月24日。カテーテルを抜き、元の施設に戻った。その11日目に義母は亡くなった。18日に85歳の誕生日を迎えたばかりだった。

「義母も実母も認知症だったので、歳を取るとみんな認知症になるのかと思っていましたが、2024年現在、65歳以上人口の20%程度だそうです。私は勝手に認知症になるとみんなが暴力的になるのだと思っていました。介護にやりがいは感じられず、認知症は家族みんなの共通認識になるまでが本当に大変だと思いました……」

義母が狂人化した頃、南田さんの夫は海外に行っていた。だから施設での義母の問題行動について報告しても、実際に見ていないことと認知症に関する知識不足から、理解されず話が噛み合わないことがもどかしかった。

「義母のケアは主に義弟夫婦がしてくれたので、私は介護らしい介護はしていません。でも母の介護は、母が喜ぶなら何でもしてあげようと思っていましたが、母を嫌いになってからは、実家に行くことがつらくなりました。どうしても苦しい時は、1人で車を運転中、声に出して大泣きしたり、お風呂でシャワーを顔にかけながら、好きなだけ泣きました」

写真=iStock.com/pocketlight
※写真はイメージです

一方、父親は歳のわりには元気だが、すでに90歳、母親はまもなく90歳になる。

「認知症は家族など、周りの人を不幸にしていく場合が少なくありませんが、認知症の実体を知ることで、この不幸は軽減されるように感じます。認知症の具体的な症状や関わり方、薬のことなど、理解を広めることで、認知症で悲しい思いをする人を減らせるといいなあと思います。また、介護者の体力や気力に余裕がなければ、温かい介護はできません。無理はせず、大変な時は助けてもらうことも大切だと思います」

南田さんは「認知症には社会の理解が必要である」と感じ、「Minami」という名前で認知症介護の経験をブログに綴っている。

筆者には認知症で施設に入っている100歳の祖母と、緑内障と白内障が悪化して視覚障害者になり、認知症も始まり独居が難しくなったため、4月から老健に入所した79歳の義母がいる。100歳の祖母は、孫である私はもちろん、娘である私の母のことさえもうわからない。義母はまだ、息子である夫のことも私のことも、その娘である孫のこともわかるが、自身の年齢を間違えることが増えた。

認知症はその人らしさを覆い隠し、別人のようにしてしまうこともある恐ろしい病気だ。南田さんも経験しているように、発症前は尊敬し、大好きだった人も、発症後、怒りや呆れ、嫌悪感を抱いてしまうケースは少なくない。

大好きだった家族は、最期まで大好きなままで見送りたいと思うのは、自然なことではないだろうか。それを実現させるためにも、認知症の介護は、安心してプロに任せられる世の中であってほしいと願ってやまない。

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