興味を抱いて娼婦になった女性が簡単には抜け出せない構造

Eさんのように「面白い」「楽しい」とはっきり言い切る証言は他には見当たらず、レアケースと言えるだろう。これ以外は、当初は占領軍やその周囲の人々の華美な生活に憧れて自らの意思でパンパンになったものの、「日本人として恥ずかしい」と悩んだり、占領兵との交際がうまく続かないことなどから「足を洗いたい」と漏らしたりして後悔しているようにみえる女性の方が目立つ。

そもそも、多感な10代~20代の女性が華やかにみえる占領兵や豊かな生活に興味や憧れを抱くのはいたしかたないこととも言え、彼女たちを責めることは酷だろう。むしろ、関心を持っただけで簡単になれてしまい、その後抜け出せなくなってしまう社会状況や環境を問題視すべきだと考える。

『街娼』中の証言のなかには、複雑な家庭環境などから家を出たことをきっかけに、出会った男にだまされたり、キャバレーなどで仕事を始めて占領兵と関係を持ったりするケースも散見される。

「家出」した少女に性的搾取しようとする男が近づいてくる

17歳のFさんは、静岡県の料理屋の子として育ったが、「3歳の時にもらわれてきた子で、実母は三重県にいる」と知らされ、「帰りたくなって」12歳の時に実家に帰った。しかし、実母は温かく迎えてくれたわけではなかった。

牧野宏美『春を売るひと 「からゆきさん」から現代まで』(晶文社)

〈実母のところは、人数も多く、他へ養女に出ていて帰ったために私に冷たい感じをもつていて、おしめの洗濯など、私にだけさせたので、家出してしまつた。15才のときの春ころで、名古屋まで無賃乗車して、駅へ下車してブラブラしていると、朝鮮の青年が来て、食事をさせてやるからと云つて近くの宿屋につれてった。いろいろ食事を御馳走してくれてから、強姦されてしまつた。私はいやらしいことをされたので駅へ逃げ帰つてしまつた〉

Fさんはその後実家に戻るもまた家出し、「収容所」に入れられ工場勤務をしていたが、そこもウソを言って出て京都に来たという。

若い女性が居場所を求めてさまようとき、性的搾取の対象としようとする男性がすかさず近づき、結果的に女性が性売買に携わるきっかけをつくっていることがわかる。

【参考記事】毎日新聞「『パンパン』から考える占領下の性暴力と差別 戦後75年、今も変わらぬ社会

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