19歳で強姦された女性も「やけくそで」“パンパン”になった
Bさん(19歳)は姉を看病した帰りに被害に遭い、「やけくそでパン助を始めた」と語る。
〈結婚した姉が肋膜で寝ており、看病に行っての帰途、少し遅くなって京津電車の三篠駅に向ふ途中、O旅館の直ぐ近くで○○○○○○○の○○2人に摑まえられ、むりやりに強姦されました。19才でした。(中略)強姦の後はやけくそでパン助を始めました。1ヶ月の収入約1万円で、こんな生活も面白くもなく不満足なのですが、致し方ありません〉
占領兵にレイプされたのをきっかけに娼婦になるという経緯は、忌まわしい過去の体験を思い出す行為に思え、一見理解しがたい。しかし、性暴力の被害にあった人に売春行為などに及ぶ場合があることは、専門家も指摘している。また当時は現在と違い、処女ではないということが、就職や結婚などの自分の将来を閉ざすものとして考えられていた点も影響したと思われる。
性暴力被害の当事者からヒアリングを行った心理学者らによる編著『性暴力被害の実際 被害はどのように起き、どう回復するのか』(齋藤梓・大竹裕子編著、2020年)によると、被害者のなかには性的衝動が抑えられない、自らを傷つけたい衝動が生じるといった、自身のコントロールが難しい状況になり、自ら不特定多数の人と性的関係を持ったり、金銭と引き換えに性交したりした人がいた。
米兵から性暴力を受けたのに米兵に体を売るという矛盾
同書は、こうした行為が、「自分から進んで性暴力の苦しみを繰り返している」ように見えるものの、「その背景には『尊厳/主体性への侵害』があり、自分に価値がないという思いから自暴自棄になり、何かしていないといられなくなる、あるいは自分のトラウマを過小評価したいという思いになるなど、さまざまな理由が存在」すると指摘する。
さらに被害者たちは「死」について語っていたといい、「死にたい」というより「消えたい」に近い感情を長時間持ち続けるとしている。
私が以前取材させてもらった性暴力の被害にあった女性も、同じような経過をたどっていた。女性は幼少の頃に義父から暴行され、中学生の時には先輩たちから集団で暴行を受けたが、その後性風俗の仕事を始めた。経済的理由もあったというが、性風俗の仕事を選んだ理由を「男性に仕返しをしたいという思いがあったから」と語った。被害を受けたことによって主体性が侵害された経験から、彼女にとって、それを克服する心理的プロセスとして、あえて自分の意思で性風俗の世界に飛びこむ必要があったということなのかもしれない。