不条理でも理屈は通っている

政府の視点、あるいは半導体産業の人の視点はそれぞれ違うもので、それぞれそれなりに納得はできるでしょう。いろいろな意見を聞いて「なるほどそういう考えもあり得るな」と感じる中で、どのように考えれば、最も説得力がある説明になるかを選んでいくことが必要になります。

もちろんその中に必ず正解があるとは限りませんが、いろいろな立場の人の多様な意見にインスパイアされながら、最も納得できる説明を探し続けていくしかない。特に研究者はそれぞれがそれぞれの結論や論理を持つわけですが、それは「自分にとって何がmake senseするか」という考え方の違いによって出てくるものです。

世の中には、確かに不条理で説明のつかないこともなくはない。例えばプーチンが何を考えているのかは、外からは計り知れないものがあります。しかし不条理に見えても角度を変えると「その角度なりの理屈は通っている」ということはあり得ます。

例えば、北朝鮮がなぜ、あれだけの独裁体制を敷いていて国民を貧しいままにさせているのに革命が起きないかと言えば、武力で脅しているからです。それは我々の価値観では許されない、不条理にも思えるものですが、北朝鮮の中では少なくとも独裁を受け入れて、体制に従順に生きる方がましだ、という理屈で動いている。

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政治のように国単位、集団単位の人を巻き込む事業においては、一見、滅茶苦茶なことをやっているように見えても、何らかの理屈が通っていないと継続することは難しい。

「説明がつかないこと」はそれほど起こりえない

ですから、実は「説明がつかないこと」はそれほど起こりえないのではないかと私は考えています。「人を動かしている、政治を動かしている理屈は何だろう」と根気強く考えていれば正解に近いものに近づいていくだろう。その思いで「なぜ」を繰り返していくしかないのです。

――そこを怠ると、わかりやすいけれど事実とは乖離した解釈や、突拍子もない陰謀論に回収されてしまいそうです。

陰謀論というのは、いわば「自分勝手に理屈を通してしまう」ものですよね。

例えば9・11に関しても、なぜアルカイダがあれほどのテロを当局にまったく悟られずに実行できたかといった時に、「CIAが計画したものだからだ」と勝手に結論付けてしまえば、一見、「筋は通せてしまう」し、わかったような気になってしまう。

勝手にひとつの話を作り出すことで、本来ならばつながっていないはずの話をつなぎ、筋が通っているかのように見せてしまうのです。

撮影=プレジデントオンライン編集部
「国際情勢を正しく把握するためには、『なぜ』を問い続けることしかない」