アメリカで広がっている「陰謀論」とは、どのようなものなのか。作家マーク・カーランスキーさんの著書『大きな嘘とだまされたい人たち』(あすなろ書房)より一部を紹介する――。
2023年10月29日、アイオワ州スーシティの選挙イベントに到着した共和党大統領候補ドナルド・トランプ元米大統領。
写真=AFP/時事通信フォト
2023年10月29日、アイオワ州スーシティの選挙イベントに到着した共和党大統領候補ドナルド・トランプ元米大統領。

「世界を支配する闇の政府」はいつ登場したのか

使い古された策略を生まれ変わらせるには、新たな名前をつけるという手がある。アメリカの保守派の政治家たちは、秘密結社イルミナティの代わりとして、新たな架空の敵「ディープステート」(闇の政府)を生みだした。このディープステートは、支配からの解放という大義のもとに、事あるごとに非難を浴びている。

ディープステートというフレーズが最初に使われたのは、第一次世界大戦後のトルコでだった。オスマン帝国の消滅後、ケマル・アタテュルク(1881〜1938)は1923年、近代的なトルコ共和国を建国した。

これに対し、民主主義に反対する保守派の集団が1950年代に結成され、「国家の内部における国家」と名乗った。主に暴動を扇動する軍人から成る集団で、政府関係者を共産主義者と見なして攻撃し、この集団の過激派は数千名もの犠牲者を出したと言われている。

1970年代になると、ソ連からの亡命者たちが「KGB(国家保安委員会)はソ連政府を操るディープステートだ」と主張しはじめた。ソ連崩壊後、ロシアを最終的に掌握したのが、元KGBのウラジーミル・プーチン(1952〜)だったというのは、なんとも皮肉な話と言えよう。

次にディープステートというフレーズが登場したのは、アメリカのバラク・オバマ大統領(在位2009〜2017)の任期後半にあたる2014年。元共和党の議会補佐官マイク・ロフグレン─―2011年に引退してからは、共和党をあけすけに批判するようになった─―が『Anatomy of Deep State(ディープステートの解剖)』という論文を書いたときだ。