「浪花節」が大好きな日本人

実は最初に欠席を言い出したのはイギリスのロングボトム大使なのですが、それが引き金になって、結果的にG6(日本を除くG7)の国々の大使が欠席することになりました。

イスラエル大使を招待しないという長崎市の決定に反発する理屈としては、やはり大使が招待されていないロシアを引き合いに「イスラエルをロシアと同列に置くことはけしからん」というものでした。

もともと、G6は2023年10月7日のハマスによるイスラエルへの攻撃があった直後に、ハマス非難決議と同時に、イスラエル支持の決議を行っています。そのため、G7のポジションは決まっている中で、決議に参加していない日本がむしろ特殊なポジションにいることになっています。一方、G7以外の国を見た場合には、欠席した国々と他の国々の乖離が目立つことになってしまいました。

――エマニュエル大使欠席に対する日本国内の反発は、思想の右左を問わずかなりの勢いで噴出したという状況でした。SNSなどでも、かなり感情的な文言が飛び交っていました。

いわゆる「浪花節」、センチメンタルな感情に引っ張られたものだと思います。いいか悪いかではなく、日本という国はそういう反応をする国であって、そうでなければ「日本らしくない」とも言えます。

ラーム・エマニュエル駐日米国大使
ラーム・エマニュエル駐日米国大使(写真=U.S. Embassy in Japan/PD US DOS/Wikimedia Commons

正しい情報を知るためにやるべきこと

大事なのは、世間の反応が「浪花節」になっているときに、我々のような国際情勢を分析する立場の人間や、メディアがそうした感情の波に押し流されたり、簡単に乗ってしまったりしないことです。

研究者やメディアに登場する人が冷静さを失ったり、「なぜそうなったのか」という問いを立てて考えることを止めて自らの感情や「浪花節」に乗っかった見解を前面に出したりするようなことは、あってはならないと思います。

感情は誰にでもありますが、それによって目を曇らされてはいけない。そのためには、やはり「なぜそうなるのか」をとことんまで考えて、納得がいくまで説明のつく理屈を考える(make sense)ことが重要です。

――ネット社会になって、得られる情報は爆発的に増えました。「知りたい」気持ちはあっても、精査しきれないままだったり、何が正しい情報なのかもわからない状態になりつつあります。

当然、世界で起こることには、分からないこともたくさんあります。

例えば『資源と貿易の世界地図』(PHP研究所)で一章を割いた半導体にしても、なぜアメリカが半導体の輸出規制を設けたのか、日本がなぜ半導体産業を支援するのかと言った時に、一応、それなりに理屈のつく説明がいくつもあり得ますよね。実際のところどれが本当なのかと迷うかもしれません。