ビジネス書の「帯」は外したほうがいい

本を読むことは「知の探究」ですから、良書「だけ」を厳選して読むことは意味がないと思います。できる限り、他の人が読まないような本を読むことがいいと思います。ベストセラーを読めば、常に学びが得られるかといえば、そうとは限りません。それが本の面白いところでもあります。反対に売れていない本でも、何らかの学びがあることがあります。

多くの本を読んでいると、時に「これはすごい!」と感動する本に出合うことがあります。たとえば経営者の本では、ユベール・ジョリーの『THE HEART OF BUSINESS』(共著、英知出版)がダントツです。本当の意味で、名著だと僕は思います。ユベール・ジョリーは、2012年に倒産寸前まで追い込まれていたアメリカの家電量販店「ベスト・バイ」のCEO(最高経営責任者)に就任しました。そして、会長を含めた8年の在任期間で、同社の経営を再建したのです。

彼は「人とパーパス(企業の存在意義)」を重視しました。そして、人を中心に置いた経営を実践するために、役員会での月次レビューは、「人」→「ビジネス」→「財務」の順番で行ったのです。一般的な会社では、最初に今月の業績など財務の話から入り、次にビジネスの戦略的な話をして、終わってしまいます。まれに人事の昇格の話をすることもありますが、最後の最後です。

僕は月次レビューのくだりを読んだときに、鳥肌が立ちました。会社にとって、もっとも大事なのは、「人」です。財務は、すでに終わった期間のパフォーマンスの数字でしかありません。それに一喜一憂しても仕方ないのです。やはり本質は人材です。「人に優先順位を置くのは当然だ」と考えている経営者は多いと思いますが、月次レビューで、人事を重視しているとの話は聞いたことがありません。

書店には「年商100億円社長の初著書!」のような煽り文句の本が並んでいますが、いざ読んでみるとどれも似たような内容だったなんてことも。同じような本を読みたくないなら、帯を外して、タイトルだけで内容を見極めるのも一つの手。本を選ぶときから、「知の探索」は始まっています。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月30日号)の一部を再編集したものです。

(構成=向山 勇 撮影(書籍)=市来朋久、早川智哉)
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