アウトプットしないと知識は身に付かない

そして、どんなタイプの本にも共通するのは、本を読んですべての内容を理解する必要はないことです。たとえば、経営者の本を読むとき、経営者も経営手法も非常に多角的です。無理にすべてを学ぼうとするのではなく、あなたが興味のある部分にフォーカスして読むことで、実践的な知識が身に付きます。たとえば、「その経営者の性格に興味がある」、あるいは「なぜ部下を引き付けることができたかに興味がある」など、あなたが惹かれる部分に絞って、そこだけ読むといいでしょう。とくに経営者の本の場合は、「困難に立ち向かって乗り越える」パターンが多くあります。もし、経営者のチャレンジに興味があるなら、困難に陥っているパートだけを読めばいいのです。

本を読んで得た知識をしっかり定着させるには、やはりアウトプットすることが有効です。インプットとアウトプットはワンセットです。多くの人はインプットだけをしようとするために、本の読み方がわからなくなってしまいます。アウトプットを前提に本を読めば、本から何を得るべきかが決まりますから、本の読み方も自然とわかってきます。

僕の場合は、書評もそうですし、池上さんと共著の本もそうですし、帯コメントを書くのも、すべてアウトプットです。たとえば、書評は500文字程度ですが、批評をこの文字数にどうまとめようかとアウトプットを意識して読んでいるので、読書の効率も上がるのです。あなたが本を読むときにも、漫然と読むのではなく、「note」や「X(旧ツイッター)」など、アウトプットする場をつくっておき、必ず感想を書くようにするといいでしょう。アウトプットは成果物です。すぐに成果物を出すことは大事です。本を読んだら、できるだけ早く感想を書く習慣を身に付けるといいでしょう。

ポイントは習慣化です。読んだ本の数を意識する必要はありません。たとえば「3日に1冊読んでnoteに感想を書こう」などと、ハイペースの目標を立ててしまうと、疲れて長く続きません。本を読むのが苦手な人は、月1冊でもいいと思います。その代わり月に1冊と決めたら「絶対に読む」「必ず、アウトプットをする」、そういった状況をつくるのが大事だと思います。

アマゾンで探すより書店に行くべき理由

本を読む目的は、「知の探索」です。可能な限り幅広い分野から選ぶことが大切です。そもそも人は、ゼロからは何も生み出せません。新しい知(アイデア)は「既存知と既存知の新しい組み合わせ」で生まれます。ただ、人の認知には限界があるので、放っておくと目の前の知だけを組み合わせがちになります。そして、新しい組み合わせには限界が訪れます。

「新しい知を生み出したい」と考えるのであれば、自分の目の前にあるものではなく、できるだけ離れた、遠くにある知を幅広く探索して、それをあなたが持っている知と組み合わせることが必要です。これが知の探索です。ですから、本を読むときにも、自分の興味からできるだけ離れた本を積極的に読む必要があるのです。

自分の興味のある分野の本だけを読むのであれば、SNSのレコメンド(お勧め)と同じです。アマゾンで本を買うときも、自分の好みに近いものが「おすすめ」に出てくるので、結局、同じような分野の狭い範囲のものしか読まなくなってしまいます。それでは、認知が広がりません。アマゾンにリコメンドされそうもない本をいかに読むかが大事です。

著書『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)にも書きましたが、僕のお勧めは書店に行って、本棚の前で目を閉じて、1冊取り出します。その本をレジまで持っていき、絶対に買って、必ず読み切ることです。タイトルを見ていたら、選ばなかっただろう本から、新たなヒントが得られるかもしれないのです。

同じように、自分と同じ分野の人の本は、できるだけ読まないほうがいいでしょう。同じ分野の本ばかり読んでいると、そこから上に行けなくなってしまいます。たとえば、孫正義さんにあこがれて、孫さんの本ばかり読んでいる人もいるでしょうが、それでは孫さんを超えることはできません。

僕の周りで突き抜けている人は、同業者がしていることには、興味をもっていません。同業者が書いている本も絶対に読みません。僕は経営学者ですが、他の経営学者が何を言っているか、どんな本を書いているかは、1mmも興味がありません。