2つ目は充電の利便性だ。今年5月末時点で、中国の公共・個人用の充電スタンドの設置数は992万4000カ所と世界最大規模を誇る。しかし、公共充電スタンドは主に沿海部に集中し、広東、上海、江蘇、浙江、山東の5地域で中国全体の47%を占める。インフラ整備の格差、都市部の住宅事情による個人専用スタンドの不足がEV普及の足かせだ。

さらに充電技術の向上もEV普及に欠かせない。EVの普通充電は6時間以上、既存の急速充電を利用しても1時間必要だ。現在、中国EVの新興勢が専用充電器の設置や充電時の電圧800ボルトに対応する新型電池の搭載を通じて、中高級EVの急速充電を実現したものの、公共充電施設における一般車両の充電時間の短縮が依然として課題に残る。

最後は安全性だ。昨年末時点で、中国のNEV保有台数は2041万台に達した一方、火災事故も増加している。21年の火災事故は約3000件。中国国家応急管理部によれば、22年1~3月には前年同期比32%増の640件で、1日当たり平均7件の事故が発生した。

車両10万台当たりの発火台数を概算すると、中国ではエンジン車(商用車・二輪車を含む)が5.8台なのに対し、NEVは4.4台。充電スタンドの欠陥や過充電、損傷や気温上昇による電池の熱暴走などが原因に挙げられる。エンジン車と比べるとNEVの火災発生頻度は低いが、電池が発火すると車両の消火が難しいのが実情だ。人気ブランドの発火事件が目立つこともあり、消費者にとっては電池の品質などを含む車両の安全性や信頼性が懸念点の1つだ。

エンジン車より安いPHEV

パンデミック後の中国新車市場においては内需回復が鈍いなか、国民所得の伸び悩みによりファーストカー購入者が減少。昨年に入ってからEVやPHEVをめぐる値下げの動きが広がっている。

テスラやBYDをはじめ、トヨタ、フォルクスワーゲン、GMも相次いで値下げし、中国市場ではEV、エンジン車を問わず価格競争の波が押し寄せている。

そうしたなか、PHEVはEVより走行パフォーマンスを維持しやすく、足元の実需には適しているため、需要が伸びている。

特にBYDは昨年、「油電同価(エンジン車と電動車は同じ価格)」というキャッチコピーを掲げ、PHEVでエンジン車市場に攻勢をかけた。今年も「電比油低(電気は燃油より価格が低い)」を打ち出し、PHEVの価格破壊でエンジン車市場を一気に刈り取ろうとしている。