政策主導から市場主導へ移行する中国のEV業界では現在、電池や駆動モーター、制御システムなどの基幹部品を低価格で量産できる体制が整い、レアアースの保有や精錬能力、自動車部品や加工設備の産業集積といった面で、日米欧を圧倒している。中国勢は自国のEVサプライチェーンの競争力を生かし、コストパフォーマンスでグローバル競争に攻勢を仕掛けている。
海外進出が生き残りのカギ
一方、アメリカはインフレ抑制法を基に中国製EVを補助金対象から外し、今年8月に関税率を現行の25%から100%に引き上げる。EUも7月から最大38.1%の追加関税を課す。中国のEVシフトを警戒する動きが欧米で広がり、部品や材料、資源の域内調達の動きや、サプライチェーンのブロック化の動きが加速している。
欧米での事業展開が厳しさを増すなか、中国企業は東南アジアのタイ、欧州のハンガリー、中南米のメキシコとブラジルを主要な進出先に選んでいる。
一時的な失速を経て、中国NEV市場の伸び自体は当面続く。今年2月に開かれたフォーラムで、中国清華大学の欧陽明高(オウヤン・ミンカオ)教授は、電池のコストダウンにより中国新車市場のNEV率が早ければ25年に50%に達すると予測した。実現すれば、中国政府が掲げた35年の目標を10年前倒しで実現することになる。
足元では世界のEV市場が踊り場を迎えているが、EVシフトは揺らぐことはないだろう。国際エネルギー機関(IEA)が今年4月に発表した報告書では、世界の新車販売のEV率が30年に5割を超えると予測されている。充電インフラの整備に伴い、EVはエンジン車と変わらないコストや品質を実現しつつ、ソフトウエアや自動運転機能などを組み込みながら進化を続けていく。
今後、海外で高性能・低コストのEVサプライチェーンを構築できれば、中国は短いスパンで新車種を投入し着々とグローバル市場で足場を固めるはずだ。これまでエンジン車を主力に据えてきた日本や欧米のメーカーはEVの競争力を確立しなければ、グローバル事業を失う可能性がある。中国市場での戦略とEVシフトの結果は、世界での日米欧メーカーの競争力も左右するだろう。
(この論考は個人の意見であり、所属組織とは関係ありません)