その一方、中国政府は20年7月から農村部でのEV普及を目指すキャンペーン「新エネ車下郷(農村へ)」を打ち出し、EVメーカーに農村市場の開拓を奨励している。なかでも上汽通用五菱汽車(上海汽車とGMが出資)が投入した60万円ほどの小型EV「宏光MINI」の登場で、地方や農村地域でEVの価格破壊が起こった。乗用車には手が届かず、他の安価で簡易な乗り物を「移動の足」にしてきた消費者にとって、低価格EVが新たな選択肢となった。
こうした政策や魅力的な製品の登場は市場拡大の要因となった一方、補助金政策の終了とともに、EV市場の成長鈍化の兆しが見えている。
補助金終了で販売が伸び悩み
販売台数の伸び率を見ると、直近3年間で平均97%増であったのに対し、今年1~5月には12.7%増と大幅に低下している。「アーリーアダプター」といわれる流行に敏感で新しい商品やサービスを早い段階で購買する消費者層の購入が一巡したことも、減速要因として挙げられる。
価格帯別の市場構造からEV需要の実態は一目瞭然だろう。今年1~5月の販売台数に占める中高級車(20万~30万元〔440万~660万円〕)、低価格車(10万元〔220万円〕以下)の割合はそれぞれ37%、39%となっているものの、大衆車(10万~20万元)の割合は22%にとどまる。小売価格10万~20万元の新車は中国乗用車市場のボリュームゾーンだが、EVにとっては「難攻不落」のマーケットだ。攻略のためには、アーリーマジョリティー層(新製品やサービスの購入に慎重)から支持を得る必要がある。
現在、一連の優遇政策などエンジン車と比べたコスパがEVの差別要素となっているが、消費者にとっては価格だけでなく、利便性や安全性も重要なポイントだ。EVがエンジン車に対抗するためには、3つの条件をクリアする必要がある。
1つ目は電池の性能向上だ。中国では寧徳時代新能源(CATL)など国内企業の成長に伴い、電池技術も急速に向上している。15年頃に300キロにとどまっていたEVの充電1回の走行距離は現在、リン酸鉄系電池で700キロ、三元系電池で1000キロを超える水準にまで達した。
一方、電池は低温時では使用可能な容量が大幅に低下し、冷暖房を使用すると走行距離も短くなる。寒冷地では充電時間が長くなり、長距離移動の利便性は大きく下がる。実際、中国北部のEV普及率は全国水準を下回り、エンジン車の需要は依然底堅いのが現状だ。