中国の自動車メーカーBYDが存在感を増している。高千穂大学商学部教授の永井竜之介さんは「EV販売台数においてテスラと激しい首位競争を繰り広げている。競争力の源泉となっているのが、独自の自動車製造体制だ」という――。
記者会見場の前に展示された比亜迪(BYD)のEV「シール」=2024年6月25日午前、東京都渋谷区
写真提供=共同通信社
記者会見場の前に展示された比亜迪(BYD)のEV「シール」=2024年6月25日午前、東京都渋谷区

テスラと首位競争を繰り広げるBYD

電気自動車(EV)といえば、アメリカのテスラを真っ先に思い浮かべる方が多いかもしれないが、そのテスラと激しい首位競争を繰り広げる、もう1つの有力企業がいる。それが、中国のBYDだ。

2023年第4四半期にBYD(約52万6000台)がテスラ(約48万5000台)を上回ると、2024年第1四半期にはテスラ(約43万3000台)がBYD(約30万台)を抜き返し、EV販売台数の世界トップの座をかけた熾烈しれつな競争が続いている(※1、2)

BYDは、バッテリー電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)を含む「新エネルギー車(NEV)」の2023年の年間販売台数が300万台を突破し、NEVカテゴリーでも世界をリードする存在になっている(※3)

「中国のテスラ」「中国のトヨタ」と呼ばれる

日本には2023年から進出を始め、2024年4月には女優の長澤まさみさんを起用して「ありかも、BYD!」とうたった広告展開が話題を呼んだ。このBYDに対して、「中国のよく分からないEVブランドが日本に出てきた」という認識は、大きな誤りである。中国国内の激しい競争を勝ち上がり、これから本格的にグローバル市場を開拓していく「EVの本命」といえる存在が日本にも上陸してきた、という見方が適切だろう。

EVの本命として、BYDはトヨタ自動車から「手を組む相手」に早くから認められている。トヨタは、すでに2019年の時点で、あまたある中国EVメーカーからBYDを選んで合弁会社設立の契約を結び、その後にセダンタイプのEV「bZ3」シリーズを共同開発している(※4、5)

BYDは、EVの有力企業ということで「中国のテスラ」と呼ばれると同時に、新たな大衆車を世界に広めていく存在として「中国のトヨタ」とも呼ばれる自動車メーカーである。ここでは、トヨタも認める、もう1つのEV本命のBYDに注目して、コア・コンピタンス(競争力の源泉)がどこにあるのかについて見ていこう。