携帯電話用バッテリーを作る電池メーカーだった

「Build Your Dream」の頭文字を合わせて名付けられたBYD(比亜迪)は、王伝福氏が1995年に深圳で創業した企業で、もともとは携帯電話用バッテリーを作る電池メーカーだった。中国・安徽省の田舎に生まれた王氏は、学士・修士を取得した後に北京の国有研究機関で研究職に就き、その後、関連のバッテリー製造会社の責任者を務めた。当時は携帯電話の普及が加速していたタイミングで、その部品のバッテリーに大きなビジネスチャンスを見込んで、王氏が29歳の時に起業に踏み切った(※6、7、8、9)

BYDはコストパフォーマンスの高さを武器に、携帯電話用バッテリーやイオンリチウム電池の市場で成長を進めると、2003年に小さな国内自動車メーカーを買収して自動車産業に進出した(※9)

当初こそ「安かろう悪かろう」で自動車市場での成長を進めたBYDだったが、後発の中国ブランドが勝ち上がっていくには、独自の強みを発揮しなければならないと考え、もともとの得意分野である電池を動力とするEVに注目。2005年に初のEV「F3」を発表するなど、自社の未来の命運をEVに賭けて、EV開発製造にいち早く着手していった(※7、9)

「BYD DOLPHIN」
「BYD DOLPHIN」(画像=ビーワイディージャパンプレスリリースより)

2008年に世界初の量産型PHEV「BYD F3DM」を発売

2010年には、世界有数の技術力を誇る日本の金型メーカー「オギハラ」の館林工場を買収し、製造拠点としてTATEBAYASHI MOULDING(TMC)を設立した。当時は日本の金型メーカーの多くが存続危機に追い込まれていた時期で、BYDによる買収は、TMCの人材や技術にとってポジティブな機会となった。BYDは特に外観デザインに強いこだわりを持っており、その技術的な要望は、時にトヨタを超えるほどだという。そうしたBYDからの要望に応える形で、TMCはより一層、自動車の車体製造の技術力を高め、それによってBYDの自動車の品質は急速に向上した(※9、10、11)

BYDは、2008年に世界初の量産型PHEV「BYD F3DM」を発売すると、その後、数多くのPHEV、BEVの電気自動車を発売して、中国国内でのNEVシェアを伸ばしていった。EV化を推進する中国政府の方針を追い風に、公共交通用のEVバスも主力商品となった。2015年からは4年間にわたって、NEVの販売台数で世界トップを獲得し続けた。2019年にテスラが上海に巨大工場を立ち上げて一気に台数を伸ばし、その後3年間はトップの座を明け渡したが、2022年からは再びその座をBYDが奪い返している(※1、3、12)