中国政府から多額の助成金を受け取っている

また、この高い内製化率を実現しているのが、関連企業の買収を通じた垂直統合モデルの確立だ。バッテリーの原材料のリチウム鉱山までをブラジルやアフリカで買収している。世界的な半導体不足が発生したときにも、自社グループのBYDセミコンダクター社でEV向けチップを製造できるために、苦境を回避することができた。垂直統合モデルによって、きめ細やかな設計・製造が可能になり、コストダウンと品質向上を両立している。垂直統合モデルは、組織が巨大化することで、販売不調時に経営が圧迫されるリスクをはらんでいるが、BYDはグループ企業に他メーカーの製造も請け負わせることでリスク分散を図っている(※15)

こうした強みを持つBYDだが、現状のメイン市場は中国国内に偏っており、その成長の背景には自国ならではの手厚い優遇が存在していることは確かだ。販売実績などに応じて額が決められる中国政府からのNEV助成金として、2021~22年度でBYDは約1020億円(1位)、テスラは約400億円(2位)を受けており、BYDへの支援が特に多いことが分かる(※18)

グローバル市場での真価が問われるのはこれから

中国がEV先進国になっている背景には、消費者がNEV購入時に利用できる政府の補助金が大きいことや、渋滞や環境の悪化を抑えるための政府による自動車購入制限がNEVでは免除されることなどがある。さらに近年、国産ブランドの品質が向上して、コストパフォーマンスに優れて使いやすく、デザインも現地の好みに合っている点などから、中国の消費者の間で海外ブランドから国産ブランドへの回帰の動きが強く進んでいる。こうした環境要因から、中国国内市場でEVトップブランドのBYDは、大きな追い風を受けている(※19、20)

BYDにとって、グローバル市場での真価が問われるのは、これからが本番といえる。その主戦場は、EV後進国で市場規模の小さい日本や、高い関税で中国メーカーの進出を制限しているアメリカではないだろう。主戦場の1つは、欧州市場だ。

すでに、欧州で購入可能な自動車の中から最優秀が選ばれるAUTOBEST「Best Buy Car of Europe 2024」においてBYD「Dolphin」が優勝を果たしており、自動車の品質へのお墨付きは得られている(※21)。BYDは、中国から欧州へ輸出する際に用いる自動車船を8隻に増やして海運の輸送能力を大幅に向上させるとともに、ハンガリーに工場を新設して3年以内に現地生産体制を整えることも発表しており、2030年までに欧州の主力メーカーに成長することを目指すと宣言している(※22、23、24)