技術開発や製造を重視したものづくり

BYDの強みの一つは、技術者出身の創業者が立ち上げた会社であることだ。自動車産業への参入当初を除けば、技術開発や製造を重視したものづくりを進めている。2024年4月の北京自動車ショーでは、競合他社の先を行き、充電や燃料補給なしで2000キロ以上の走行を実現する新型PHVを発表して大きな注目を集めた(※13)

自動車のデータ解析を専門とするアメリカのケアソフト社は、BYDの自動車を分解して品質を分析した結果、BYDの低価格帯EVが、アメリカ製の高価格帯EVに匹敵する品質を備えていることを明らかにしている。当初は「テスラのパクリに過ぎない」と考えていたというが、実際に分解して分析してみると、製造技術、装備、外観・内装、走行性能、安全性能、いずれも高水準であり、「もし米中間の貿易障壁が無ければ、海鴎(BYDの車種)は米国市場で大きな競争力を持つことになる」と指摘したうえで、「米国でこのような低価格の車を製造できないのは、米国の人件費が高いことだけが原因ではなく、米国メーカーの自動車製造に対する考え方、製造技術や製造プロセスなどが中国に後れを取っているからだ」とまで指摘している(※14)

「BYD ATTO 3」
「BYD ATTO 3」(画像=ビーワイディージャパンプレスリリースより)

内製化率が高く、バッテリーも自ら製造できる

BYDが、これほどまでに競争力の高いEVを実現できる背景には、独自の自動車製造体制がコア・コンピタンス(競争力の源泉)として発揮されていることがある。BYDの自動車製造の特徴として、内製化率が極めて高い点がある。一般的な自動車メーカーが半数を超えるパーツを外注しているのに対して、BYDは75%を自前で製造することができるのだ(※15)

BYDは、車体、車載用半導体チップ、エンジン、計器、ブレーキ、ワイパーなど、タイヤとガラス以外は一通りを自前で製造できるほどに、自動車の部品を内製化している。海外のサプライヤーに依存しているのは、クアルコム社から調達している先進運転支援システム用のチップくらいだという(※16)

そのなかでも、バッテリーを自前で作れる強みは大きいものだ。EVのコアであるバッテリーに関する技術力に優れ、EV用に独自開発した「ブレードバッテリー」は高品質で、希少金属を用いないことで低コスト化を実現している。バッテリーを自ら製造できる自動車メーカーである点は、競合他社にはないBYDだけの特別な強みとなっており、EVの高いコストパフォーマンスの源になっている(※6、14、17、18)