2023年下半期(7月~12月)にプレジデントオンラインで配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします――。(初公開日:2023年12月1日)
家族みんなが仲良く過ごせる家とは、どのようなものか。一級建築士の飯塚豊さんは、生き物の本能に即して、互いに安心して仲良く暮らしていく秘訣はなるべく距離を保つことだという。編集者の藤山和久さんが書いた『建築家は住まいの何を設計しているのか』より紹介しよう――。
※本稿は、藤山和久『建築家は住まいの何を設計しているのか』(筑摩書房)の一部を再編集したものです。
難解な計算問題に親が同じ目線で取り組める間取り
ある建築士事務所のお手伝いで、4人家族の新居の打ち合わせに参加したことがある。子供は小学生と幼稚園児の2人。ご主人は脱サラをして、奥さまの実家で果樹栽培の修業を始めたばかりの人だった。
話題が子供部屋に移ったとき、
「最近はスタディコーナーをつくる家が多いですよ」
と事例写真を見せながら紹介すると、
「これ、すごくいいじゃないですか」
とご主人のテンションが一気に上がり即座に採用が決まった。
まわりを畑に囲まれた、約90坪の敷地に建てる平屋である。
スタディコーナーとは、文字どおり子供が教科書やノートを広げて勉強に勤しむスペースをいう。多くはリビング、ダイニング、キッチンといったパブリックなスペースの近くに、2人以上が並んで座れるカウンター状の机として造りつけられる。
かつては、同じ目的でダイニングテーブルが多用されていた。しかし、食事のたびにテーブルの上を片づける手間を考えると、専用のスペースを設けたほうが使い勝手がいい、との判断からしだいにスタディコーナーとして独立させる家が増えていった。
机に2人以上の横幅を確保するのは、子供の隣で親が勉強を見てやるのに都合がよいからだ。子供の隣にもう1つ椅子が置けると、
「ねえ、これどうやってやるの?」
と難解な計算問題を前に動きが止まった娘の呼びかけにも同じ目線で応じられる。