駆動モーターと電池を搭載するPHEVは一般的に原価が60万~80万円程度余計にかかり、エンジン車にコストで対抗するのは容易ではない。だが、大衆車路線を狙うBYDは独自の技術を採用し、電池やパワートレイン(駆動装置)、内外装部品を含めた垂直統合型の生産体制で強い競争力を維持。これまでエンジン車に乗っていた消費者が、EVより航続距離の長いPHEV市場に流れている傾向が見える。

BYDの牽引により、中国のNEV市場に占めるPHEVの割合は20年の18%から今年1~5月には40%へと上昇した。小型EVはコスパ面の需要は満たせるが、あくまで短距離向け。一方の長距離走行向けEVはコストの高い大容量電池を採用するため、車両価格が高い。これが走行距離とコストのバランスにたけたPHEVの人気が出る理由だ。

PHEVの中でもBYDの「秦PLUS DM-i」の最廉価グレードは約8万元で、購入税10%の免除措置を受ければ、同じセグメントの人気車種であるトヨタのカローラと比べて3割以上安くなる。これだけの差がつくと、エンジン車とPHEVでは勝負にならないのだ。

近年、エンジン車の市場が縮小の一途をたどり、自動車業界にも淘汰の波が到来している。中国で生産実績があったエンジン車メーカーは19年の110社から昨年には94社に減少。自動車業界全体の工場稼働率は19年の77.3%から今年1~3月には64.9%へと低下している。

また、BYDの価格破壊を契機とした中国市場の値下げ競争は外資系全体の競争力を脅かし、中国乗用車市場に占める外資系ブランド車のシェアは20年の61.6%から今年1~5月の38.7%と大きく減少した。

新車市場のレッドオーシャン化で、欧米や日本勢の苦境は一層鮮明になる一方、苦戦を強いられる新興EVメーカーも増加している。

昨年にはフィアット・クライスラー・オートモービルズ、三菱自動車、ホンダの高級車ブランド「アキュラ」が次々に中国市場から撤退し、現代自動車が北京工場の売却を余儀なくされた。新興勢の威馬汽車(WM Motor)と奇点汽車(Singulato)は破産し、恒大新能源(China Evergrande New Energy)、愛馳汽車(Aiways)、高合汽車(HiPhi)は経営難に陥っている。

市場淘汰が進む一方で、中国勢はグローバル展開に取り組んでいる。自動車輸出台数は昨年に491万台となり、日本を抜いて世界1位に躍り出た。なかでも主力のNEV輸出台数は120万台に達している。