今年6月~11月にかけて、中国各地で無差別殺傷事件が相次いでいる。犯行現場や犯人の年代はバラバラだが、なにか共通点はあるのか。ジャーナリストの中島恵さんは「中国社会では戸籍をめぐる差別や『中考分流』と呼ばれる政策によって、社会に大きなひずみが生まれている」という――。
男が車を暴走させ多くの死傷者が出た現場の近くで手を合わせる人
写真提供=共同通信社
男が車を暴走させ多くの死傷者が出た現場の近くで手を合わせる人=2024年11月13日、中国広東省珠海市(共同)

年齢や地域、所得では分析できない

今年6月、中国・蘇州市で日本人母子をかばって中国人女性が刺殺された事件以降、中国各地で無差別殺人事件が頻発している。9月18日には広東省深圳市の日本人学校で日本人男児が刺殺されたが、その後も、上海市のスーパー、広東省珠海市のスポーツ施設、江蘇省無錫市の職業専門学校、湖南省の小学校など、殺傷事件が止まらない。

なぜ、中国で、このような無差別殺人事件が続いているのか。これまでの事件は、犯人の動機が当局によって明らかにされていないものがあり、不明点も多い。日本人が殺されたことで、日本で最もショッキングに受け止められた深圳市の事件の犯人は44歳の男だったため、当初、「80后(80年代生まれ=バーリンホー)」世代の特徴について分析する報道もあった。

だが、その後の事件の犯人の年齢は21歳(江蘇省の事件)から62歳(広東省の事件)までとさまざまで、エリアも全国各地にわたっており、年齢や地域、所得などだけで犯人像を分析、判断することはできない。犯行動機も「離婚後の財産分与のトラブル」(広東省の事件)、「卒業証書をもらえなかったことや職場での報酬への不満」(江蘇省の事件)など、わずかに説明されているものもあるが、日本人が刺殺された事件の真相が明かされることはないだろう。

いずれも「社会への報復」が動機だが…

全体を通して、中国メディアで挙げられている共通のキーワードは「社会への報復」(中国語では「報復社会」または「社会性報復」)だ。社会への報復とは、社会に対して不満を抱えている者が、無差別に誰かを攻撃することだ。

中国では「三低三少」(所得、社会的地位、社会的人望が低いこと(三低)、人とのつき合い、社会と触れ合う機会、不満を口にできる機会が少ないこと(三少))が犯人の共通点との指摘もあるが、犯人はすべて、その場で、現行犯で逮捕されており、逮捕を覚悟の上での犯行だったことがわかる。

しかし、彼らが社会に報復しようと考える、そもそもの理由、背景は何なのか。それ自体、これまであまり説明されていなかったのではないか、と感じている。

私が考える背景は、主に以下の3点だ。1つ目は新型コロナの後遺症が、ここへきて一気に噴出、表面化しているのではないか、という点だ。