多くの人が「ゼロコロナ政策」に人生を奪われた
2020年初頭に始まった新型コロナにより、中国社会は大混乱に陥った。感染は世界各国に拡大したが、中国はいち早く、封じ込めに成功。しかし、感染は再拡大し、中国政府はゼロコロナ政策に踏み切った。国民に毎日のPCR検査を強制し、外出する自由を奪われるロックダウン(都市封鎖)が多くの都市で実施された。当時、中国人の中には自殺者も増え、精神的な病にかかった人も多かった。
日常の自由が奪われただけでなく、最も深刻だったのは経済の低迷だ。不動産不況がそれに追い打ちをかけた。コロナさえなければ、あるいは、ゼロコロナ政策さえなければ、順調に仕事を続けられたのに、コロナのせいで人生が暗転してしまった人、失業に追い込まれたという人は非常に多い。
日本など海外でも同様に、コロナを機に人生が大きく変わった人はいるが、中国では政府からの補助金、補償などはほとんどなく、飲食店経営者などは多額の借金を背負わされた。また、経営していた企業が倒産し、やむなく転職したが、そこでも仕事がうまくいかなかったという例は数えきれない。住宅ローンが返せなくなり、マンションを手放したという人も多い。
道徳と人間形成がないがしろにされてきた
広東省珠海市のスポーツ施設で35人を殺害した男は「離婚後の財産分与に不満があった」とのことだが、仕事がうまくいかず、生活が困窮したり、家庭不和になり、離婚せざるを得なかったケースも少なくない。子どもも、それまではインターナショナルスクールに通っていたが、生活が困難になったため、一般の学校に転校させられ、不登校になったという話も聞いたことがある。
2つ目は、そもそも論だが、やはり教育の問題が非常に大きいのではないかと感じている。昔も今も、中国の受験競争の激烈さは有名だ。子どもに長時間勉強させ、有名な学校に進学すれば、人生の成功者になれると信じてきた人が多い。そのため、とくに都市部の子どもの多くは勉強一辺倒の生活を送り、家庭教育(しつけ)や道徳は二の次、あるいは、ないがしろにされてきた。
私の以前の記事でも触れたことがあるが、子どもが勉強中、母親が子どもの口に食べ物を運んで食べさせたり、通学時は常に母親やお手伝いさんがカバンを持ってあげたりするなど、あまやかして育てている人もいる。
中国の一人っ子政策(1979年)の実施後に生まれた世代(44歳以下)は一人っ子が多く、家庭内、家庭外で人間形成を学ぶ場が少なく、自分中心で、他人を思いやることができず、何でも周りの人がやってくれるのが当たり前、という人もいる。また、勉強ができないと「人生の失格者」というレッテルを貼られてしまう。