政府は「反日教育はない」と主張するが…
中国・深圳市の日本人学校近くで日本人男子児童(10)が刺殺された事件から1カ月以上が経過した。6月にも蘇州市の日本人学校のスクールバスのバス停で日本人母子が襲撃された事件が起きた。日本政府は中国側に原因究明を求めているが、中国側からの回答はなく、日本人学校などに対する反日的なSNS投稿の取り締まりを求めたところ、政府報道官は「中国には、いわゆる反日教育はない」と主張した。
5月には東京・靖国神社の石柱に中国人がスプレーで「Toilet(トイレ)」と落書きした事件もあったが、犯人の動機の背景には、中国の反日教育があるのだろうか。日本でよく取り上げられるのは愛国教育という言葉だが、反日教育と愛国教育はイコールのものなのか。中国の愛国教育について解説する。
今年1月1日、中国で「愛国主義教育法」が施行された。中国の報道によると、「ネットや文化施設での愛国宣伝に力を入れ、思想統制を通じて、中国共産党の一党支配を強化することが目的」で、従来からあった愛国主義教育を法制化したものだ。
天安門事件で混乱した社会をまとめるため
今月、中国は台湾に向けて大規模な軍事演習を行ったが、台湾統一に向けて、台湾の人々への宣伝を強化する目的もあるとされる。具体的には、小学校から高校までの各教科書に愛国的な内容を盛り込み、家庭でも保護者が子どもに「愛国」を指導すること、偉大な祖国や中華民族、中国共産党への思い入れを高めること、などとされている。
では、愛国主義教育とは一体何なのか。日本では省略して愛国教育と呼ばれることが多い(以下、愛国教育)。1949年の建国後、徐々にその基礎ができてきたが、強化されたのは90年代、江沢民国家主席の時代になってからだ。89年の天安門事件で混乱した社会をひとつにまとめ、国民の求心力を高めるために進められたと言われている。
94年には「愛国主義教育実施綱要」が策定され、その後、全国各地にある戦争関連の博物館、記念館、中国共産党関連の施設などを愛国主義教育基地(以下、愛国基地)に指定した。全国に100カ所以上あるとされる。