不満の捌け口→日本叩きにつながっている

むろん、個人差、地域差、教師の思想の差、家庭教育の差などもあるので一概には言えないが、当時、北京や上海で行った私の取材の範囲では、80年代生まれの人々が必ずしも教育のせいで反日的とは限らないという意見が他の人々からも多く聞かれた。その頃はむしろ、アニメなどの影響で日本に憧れている若者が多く、「社会に不満を抱いている下層の人々が“愛国無罪”を口実にデモを先導したのでは……」という意見が多かった。

「愛国無罪」とは、「愛国心から行うことなら、罪にならない」という意味だが、この言葉は中国人が政府への不満を堂々と口にできず、その代わり、日本など外部に不満のけ口を求めた際に、「口実」としてしばしば使われてきた。

この言葉はその後もずっと使われ続けており、23年に福島第一原発の処理水問題が起きた際、中国から日本に大量の迷惑電話がかかってきた際などにも使われた。この言葉を使うことによって、免罪符ができ、政府から罪に問われないという逃げ道だったが、昨今の状況は、以前よりも深刻化してきていると感じる。

習近平政権下での不満が溜まっている

コロナ禍以降、不動産不況などもあり、中国国内の経済が急速に悪化。生活に不満を持つ人が非常に多く、ここ数年、国内で無差別殺人事件が頻発しているからだ。日本人だけでなく、吉林省の公園でアメリカの大学教員なども被害に遭っており、病院やスーパーなどでの無差別殺人事件も起きている。政府は日本人児童刺殺事件について「偶発的だ」と言っており、その真偽は不明だが、国内では、犯人と面識やつながりのない中国人が被害に遭っていることは事実だ。

また、習近平政権になって以降、政治的な締め付けが強くなり、中国社会全体にストレスが溜まっている人が多いとの声も聞く。そのストレスの捌け口の一つがSNS上での誹謗中傷合戦だ。コロナ禍でも中国人同士のSNSを介した誹謗中傷がエスカレートし、社会問題となったが、冒頭で紹介した靖国神社で落書きをした中国人も、中国では有名な反日インフルエンサーだった。「愛国」を口実として反日的な投稿を繰り返し、それが同じような不満を持つ人々にウケて、英雄視されるようになったのだ。

夜の路上でスマホを使用している人の手元
写真=iStock.com/Blackzheep
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SNS上での歪んだ愛国といえば、21年、大連で起きた事件を思い出す。9月18日を前にした8月、日中共同のビッグプロジェクト「盛唐・小京都」が開業したが、SNSで「これは日本の文化侵略だ」「日本に侵略された歴史を忘れたのか」と批判が大量に書き込まれ、一時営業中止に追い込まれた。政治と何の関係もないプロジェクトが「愛国」を理由につぶされたのだ。