野球未経験スタッフの「心理的安全性を担保」するのが強さの秘密
ストレングスを担当する女性スタッフからは、選手の本音と建前がわかりにくいと指摘された。深く入り込むコミュニケーションを取らないと、彼らは本当のことを言わないと感じていたそうだ。ストレングス担当にとっては、選手が痛いと感じているのか、それほど痛くないのか、これを見極めるのが難しいと訴えた。
プロ野球選手は、試合に出ないと意味がない。若い選手もそれはわかっている。痛みを訴えてしまうと、試合に出られなくなる。その恐怖は、骨の髄まで浸透している。
ただ、マリーンズは選手層が薄い。怪我をされてしまうと、チームにとってマイナスになる度合いが他球団より深刻だ。スタッフの発言は「怪我を減らす」という課題から出てきたものだが、野球人からすると気づかないポイントで、壊れるまでプレーさせてしまう可能性があった。
怪我は軽度のうちに治したほうが、戦力として使えなくなる期間が短くなる。怪我の早期申告がチームにとって悪いことではないと選手にわからせる方法を、選手の立場に立って考え始めた。
さまざまな立場のスタッフが参加し、野球を体験していない人が参加する会議では、野球経験者が「野球の素人が口を出すな」と言い出す可能性もある。そのような排他的な雰囲気が醸成されると、素人は意見を言いにくい。そこで、会議が始まる前に私は参加者全員に向けてこう話した。
「このミーティングの趣旨は、さまざまな意見を出すことです。意見の違いは単なる違いであって、決して間違いではありません。むしろ、一見すると間違いのような意見がほしいと思っています。だから、何でも言ってください」
心理的安全性を担保することで、意見を言いやすい環境を整える。それこそが、チーム力の向上に寄与するのは確実である。
課題に対する解決策まで考えてもらったのは、多くの人の知恵を集め、課題の解像度を高める狙いがあった。野球関係者からは因果関係から課題を解決する方法、野球未経験者からは野球界の常識を疑う方法という二方向からアプローチできる。