「1両4扉」の流れに逆行する中央線快速

さらに、中央線快速には特殊事情が積み重なる。ホームドアの導入には、ホームドアと列車の扉の位置を一致させる必要がある。そのために山手線や京浜東北線や大手私鉄などで片側6扉の車両を廃止した。ホームドアの開口部を増やすと、ホームドアそのものを格納する場所がなくなってしまうという理由もある。

しかし、中央線快速は「ドア位置を揃える」に逆行する施策を始めた。グリーン車の導入計画だ。10両編成の電車の中間に2両のグリーン車を追加する。2015年に発表し、ホームの延長、それにともなう駅構内の分岐器の移設、信号システムの変更など改良場所は多岐にわたる。

普通車は1両の片側に4つの扉があり、グリーン車は2つだ。ならば中央の2つだけ閉じっぱなしにすれば良い、というものではない。2階建てグリーン車は車端部に平屋構造の座席を配置するから、扉の位置はやや中央寄りになる。乗客の動線を考慮して、列車のどの定置にグリーン車を導入するか決める。こうして初めてホームドアの場所が決まる。

グリーン車の追加も1日では終わらないから、全車両にグリーン車の組み込みが終るまで設置工事に着手できない。

特急電車にも対応した新設計タイプが必要

さらに、東京・立川・八王子・高尾の各駅は特急「あずさ」「かいじ」も停車する。特急車両の乗降扉は車端部にあり、中央線快速の普通車ともグリーン車とも異なる。こうなると、戸袋位置を移動するタイプのホームドアや、開口部を広くしてどのドアにも対応できるタイプのホームドアが必要だ。ある程度量産化されたホームドアではなく、新設計になるだろう。

これらの要素が重なって、中央線快速のホームドア設置は遅れている。季節によって三鷹駅で特急「あずさ」「かいじ」の臨時停車を実施しているけれど、ホームドア設置をきっかけに臨時停車はなくなるかもしれない。

こうした事情を理解できても、心情的には「まだか」と思う。それまでは私たち自身が身を守るしかない。ホームに視覚障害者がいたら補助し、酔客や体調不良の人を見かけたら見守り、ひどければ駅員に知らせよう。万が一、人の転落を見かけたら警報ボタンを押す。すぐに降りて助けたい気持ちはわかるけれども、警報ボタンが先だ。巻き添えになるかもしれない。

そもそも鉄道線路の近くは危険な場所である。ホームも例外ではない。

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