ホーム事故自体は減少傾向にある

内閣府がまとめた「令和6年版交通安全白書」によると、「ホーム事故」は2014(平成26)年から減少傾向だった。これは新型コロナウイルス対策による外出自粛、リモートワーク推奨によって、鉄道利用者そのものが減っていた時期と一致する。しかし、2021(令和3)年から一転して上昇傾向だ。

【図表】ホーム事故の件数と死傷者数の推移
鉄道利用客の回復とともに、ホーム転落事故も復活してきた(出典=令和6年版交通安全白書 第2部 鉄道交通

つまり、人身事故が増えた気がする理由は、鉄道利用者数が復活したからだ。増えたと言っても過去のピーク時の数値よりは低く、長期的には減少傾向にある。背景として、高架化やホームドアの設置が進んでいることが挙げられるだろう。ここ数年の上昇傾向が続かないように対策を続ける必要がある。

転落事故の原因1位は「酔っ払い」

駅の人身事故というと、「飛び込み自殺」「スマホ歩き」を思い浮かべるかもしれない。どちらも社会問題になっている。ネットでは人身事故について「死ぬまで迷惑をかけやがって」と憤る人、それに対して「生きるのがつらくてなくなった人に対して心無い」と批判する人などで論争が起きる。

たしかに、『鉄道人身事故データブック 2002-2009』(回答する記者団/佐藤裕一著)」によると、その時期では駅構内の人身事故の55%は自殺だった。

しかし、近年のホーム転落事故の最大の理由は、自殺でもスマホ歩きでもない。国土交通省は2019年に「ホームドア整備に関するWG」を設置した。2020年に発表した報告書によると、2019年度のホーム転落事故要因のトップは「酔客」の54.2%で過半数を占める。

次が「体調不良」で7.3%、「携帯電話使用」が1.5%、「旅客トラブル」が0.9%だ。また、「その他」が35.9%となっており、ここには「飛び込み自殺」「視覚障害者」などが含まれているはずで、内訳は示されていない。

【図表】ホームからの転落の要因別件数
ホーム転落事故の原因トップは「酔客」(出典=ホームドア整備に関するWG 報告書

ホーム転落事故の総数は2014年をピークに減少傾向にあり、ホームドアという物理的な壁が自殺願望を踏みとどまらせているだけではなく、酔客も救っているはずだ。

なにより、酔客のホーム転落の増加は、アフターコロナで家庭外の飲酒機会が増加したためと私は想像する。車の飲酒運転防止標語にならって「飲んだら(電車に)乗るな」と言いたい。こればかりは法律で罰するわけにもいかず、乗客のマナーに頼るしかない。