「避難所→仮設住宅」で終わりではない

――能登半島地震から半年が過ぎても、災害関連死が発生する恐れはあるのですか?

避難所を出て仮設住宅に入居したら、もう安心だと考える人も多いかと思います。しかし被災した人にとって、仮設住宅に入居したからといって避難生活が終わったわけではありません。

仮設住宅に暮らせる期間は、原則2年間です。その間に、仮設住宅を出たあとにどこに暮らすのか。家を建て直して元の町に暮らすのか。災害公営住宅に転居するのか。あるいは親族の元に身を寄せるのか。そのための費用はどうするのか……。被災した人それぞれが、その期間に生活再建に向けて考え、動かなければなりません。

とくに能登半島地震の場合は、いまだに町が復旧する見通しが立っていません。先が見えない不安や焦りのなか、仮設住宅という仮住まいで暮らすのは、心身ともに大変な負担がかかります。

写真=iStock.com/SteveCollender
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私は2012年から岩手県陸前高田市のいわて三陸ひまわり基金法律事務所の所長として、3.11で被災した方々を法の面からサポートしてきました。私がはじめて災害関連死の申請をお手伝いしたケースが、まさに避難所から仮設住宅へと生活環境が変わるストレスと疲労で命を落とされた方のご遺族でした。

震災がなければ、いまも元気だったはず

亡くなったのは62歳の男性で、震災前まで漁業を営んでいました。仮設住宅に入居できたのは、震災から5カ月ほど経った夏でした。

長期化した避難所生活が終わり、やっと一息つけると安堵したのもつかの間。食欲がなくなり、みるみる痩せていきました。私も元気な頃と、仮設住宅に入居後の写真を見せてもらったのですが、まるで別人でした。

プライバシーがない避難所から仮設住宅に移り、張り詰めていた緊張感が緩んで、蓄積された疲労とストレスが一気に噴出したのでしょう。肺炎を患って、入退院を繰り返し、2011年12月に息を引き取りました。

この件は、当初、災害関連死に認められませんでした。入院して治療を受け、退院した。その時点で、災害の影響を脱したと判断されたようでした。

ただし奥さんは行政の判断にどうしても納得できなかった。それはそうです。健康だった旦那さんが震災をきっかけに体調を崩し、亡くなるまでを間近に見ていたわけですから。震災がなければ、いまも元気だったはずなのに……。

ご遺族はそんな思いから災害関連死の申請に踏み切ります。それなのに、なぜか、夫の死は災害と無関係とされてしまった。

奥さんから相談を受けた私は、病院から医療記録などを取り寄せて、改めて申請してみました。すると、行政の判断が覆り、今度は災害関連死と認められました。