マンションを特別価格で購入し、転売で利益を出す

中国は日本の不動産バブル崩壊から多くを学び、同じ轍は踏まないと豪語していた。日本で不動産バブル崩壊の後に経済が長期間にわたって低迷した原因は、不動産会社に資金を融資していた銀行の経営が悪化したからである。そのように分析した中国は、不動産開発に伴うリスクを銀行ではなく不動産購入者に押し付けるシステムを作り出した。

日本ではデベロッパーは銀行からお金を借りて、そのお金で土地を購入し、そこにマンションを建設し、完成した後に買いたい人に売る。しかし、中国では建設計画の段階でマンションを販売する。そこで集めた資金を用いて、土地を購入しマンションを建設する。

デベロッパーが倒産した場合に日本では銀行が不良債権を抱えることになったが、中国ではマンションを購入した者が不良債権を抱えることになった。現在、中国ではローンを組んでお金を払ったのにマンションが完成しないことが問題になっている。

ベトナムでも不動産の事前販売が行われた。不動産価格が勢いよく上昇していたために、早く購入した方が得だったからだ。このような状況の中で、不動産業者は許認可に関連する政治家や官僚に対して、一般の人々よりも早く情報を教えて、特別割引価格で販売していた。完成後に転売すれば多額の利鞘を取れる。

大手デベロッパーといえども資金の調達には苦労する。だから信用度の高い顧客が購入してくれることはありがたい。政治家や官僚は妻や妻の親族の名義でマンションを購入していた。

中国やベトナムは夫婦別姓だから、政治家や官僚の関与は一般の人にバレにくい。ただバックが誰であるかは容易に分かるから、融資の許可はすぐ下りる。このような行為を完全に汚職と決めつけることはできない。グレーな汚職と言ってよい。

不動産バブルの崩壊がベトナムに与える影響

そんな両国を不動産バブル崩壊が襲った。本書は中国を論じるものではないが、中国の政治家や官僚の多くは、この資金転がしがうまく行かなくなって大きな損失を出している。中国では建設途中でストップしているマンションが2000万戸もあると報道されている。中国の人口は日本の約10倍。もし日本で200万戸のマンションが建設を中断してしまい、購入者に引き渡されないような事態が発生すれば、政治的にも大問題になっているだろう。

しかし、中国ではそれほど大きな問題になっていない。それは購入者の多くが政治家や官僚に関係のある人々だからである。彼らは後ろめたいことがあるために、騒ぎ立てることはない。バブルが崩壊しても、中国社会が案外平静を保っている理由の一つがここにある。

ベトナムでも同様の現象が規模を小さくして生じている。2022年の秋に突然、不動産バブルが崩壊すると、多く政治家や官僚が困難な状況に追い込まれてしまった。だが、彼らは声を上げることができない。声を潜めて耐え忍ぶしかない。最近、資金繰りに窮した官僚の自殺が増えているとも聞く。

不動産バブル崩壊は始まったばかりであり、今後、さらに不動産の価格が下落してデベロッパーが本当に倒産すれば、それは不測の事態を引き起こす可能性もある。この辺りのことは予測するのが難しい。何事も秘密主義でやってきた中国やベトナムで不動産バブルが崩壊すると、その処理は日本のようには進まないと思う。