「昔は俺のほうが優秀だった…」というひがみが汚職を生んでいる

そして部長クラスを考えた場合には、同年代の人々との所得格差を考慮しなければならない。役所に入るための試験はおざなりであり、出世もコネが重要とされるが、それでも主要な官庁やハノイやホーチミン市で部長や局長クラスに出世する人は優秀である。彼らはベトナムの名門大学を出ているケースが多く、かつ学校時代も優等生だった。

部長や局長になるのは40歳以降であろうが、ベトナムは20年前に比べて大きく変わった。

21世紀に入った頃は、経済成長が始まったと言ってもまだ貧しく、貧しさを分かち合う時代だった。だが、過去20年でベトナム経済は飛躍的に成長した。

そのような経済情勢の中で最も豊かになったのは、企業経営者や商店主であった。ベトナムは労働者の賃金が安い。その反面、その安い賃金を利用して経営者が成功するチャンスが多い。そして公務員は労働者と同様に雇用される側にいる。

20年前に同じ大学を出た仲間が、企業を経営したり商店主になったりして豊かになった。学生だった時は俺の方が優秀だったのに……。そうぼやく役所の局長や部長クラスは多い。その複雑な思いが、彼らを汚職に走らせている。

局長や部長は、給料は安いが許認可権を持っている。商売で成功した昔の仲間はお金を持っている。商売を広げようとした時には役所の許認可が必要になる。そこから、何が起こるかは想像に難くないだろう。

政府が金欠で公務員の給料を上げられない

ベトナムで汚職を撲滅するには、役人の給料を同程度の能力がある民間人と同じ水準にする必要がある。しかし、ベトナム政府はそれを行うことができない。最大の理由は、政府にお金がないからだ。ベトナム政府はいつもお金が不足している。

政府にお金がない理由として、税制の不備がある。日本企業だけなくすべての外資系企業が、自分たちだけが税金を取られていると思っている。基本的に外国から来た企業は法律に基づいて税金を支払う。脱税がゼロとは言わないが、遵法精神で会社を運営している。

ベトナムの企業でも大企業は税金を払っている。そこで働いている人々もエリートであり税金を払っている。外資系と同じような感覚で運営されている。

問題はベトナムに多数存在する零細企業や個人商店である。それらは多くの人を雇用している。また路上の屋台で働いている人も多い。そのような人々は、全くと言っていいほど税金を支払っていない。

ベトナムにも消費税が存在するが、小さな商店や露店で消費税を取られることはない。正確な統計があるわけではないが、ベトナム人の9割は税金を支払っていないと言われている。庶民は税金を払わなくても良い。そんな社会的なコンセンサスがあるのではないかと疑ってしまう。

このような状況を、社会主義の時代に税金がなかった名残だと言う人もいるが、中国政府はそれなりに税金を集めているので、庶民から税金を取れない理由を社会主義だけに押し付けることはできないと思う。