出生率の低下に歯止めがかからない。岸田政権の「異次元の少子化対策」も効果が出るかはかなりあやしい。日本はどうすればいいのか。ジャーナリストの此花わかさんは「わずか約10年で出生率を1.23から1.5へ劇的に上昇させた中欧の国の施策では、出生率だけでなく貧困層が減り、税収もアップした」という――。
笑顔の赤ちゃん
写真=iStock.com/Tom Merton
※写真はイメージです

先日、東京都が少子化対策として、シングルを結婚させようとマッチング・アプリ運営に乗り出したというニュースにSNSでは批判の嵐が起こった。

それを引き合いにして「この国の施策を見よ」とばかりに、北欧やフランス、ドイツの子育て支援策とともにXなどで紹介・拡散されたのが、ハンガリーの家族政策だ。

出生率を上げる政策を日本では「少子化対策」と呼ぶが、このハンガリーでは「家族政策」と呼び、未婚・子どもがいない国民も恩恵を受ける包括的政策を展開している。

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1.23→1.59へ、欧州一の“出生率増加”したハンガリー

欧州の内陸国・ハンガリーは北海道と同じくらいの緯度で、国土の中央部をドナウ川が流れている。冬の寒さは厳しいが、夏の平均気温は22℃程度で湿度も低く過ごしやすい。パプリカ料理が有名で、フォアグラの一大産地としてもよく知られる。

パプリカ料理
パプリカ料理(写真提供=筆者)

そのハンガリーの出生率は、2010年以来1.23から1.59(2021年)まで少子化を劇的に改善した。その増加率はヨーロッパでナンバー1である。一方で、日本の出生率は過去最低を更新し、2023年は1.20となった。

西側諸国のリベラルからは極右政権だと批判されるハンガリーのオルバン政権だが、政策を見ると、実は日本と似た点がいくつかある。

例えば、ハンガリーと日本は短期間だけの移民政策を採用し、移民なしで出生率を上げようとしている。また、伝統的な家族の価値を大事にし、LGBTQを迫害はしないが、同性婚は禁止という点も似ている。

一方、大きく異なる点もある。ハンガリーの男女賃金格差は13.1%でOECD41カ国中25位。これは13.5%のドイツ(26位)、14.5%のイギリス(30位)、17.0%のアメリカ(34位)や17.1%のカナダ(35位)よりも小さい。21.3%(4位)の日本よりも格差がはるかに小さい。また、OECDが調査したワークライフバランス指数では8位にランクインし、36位の日本よりもずっと労働時間が少ない。

ひとり親家族や孤児への支援も手厚く、(詳細は「7割の別居親が養育費不払いの日本と大違い…渋る親の給料から国が徴収・立て替えもする東欧国に学ぶべき事」)西側諸国と遜色のない男女平等やクオリティオブライフ(QOL)を持ち合わせている。

そんなハンガリーから日本がローカライズできる政策はないのか。

現地に飛び、人口学者、経済学者、現地の若者から子育て家族に取材した筆者が発見したのは、ハンガリーの家族政策は日本が呼ぶ「異次元の少子化対策」ではなく、もっと重層的な政策からなる「経済安全保障政策」だったということだ。