税金を徴収しようとしても「賄賂」で見逃される

ベトナムの税務署は中国とは異なって弱く、個人商店から税金を徴収することはまず不可能という。税務署の職員を増員して一軒ずつ訪ね歩かせたとしても、職員が税を徴収する代わりに賄賂を貰って見逃してしまうだけだと言う。

交通違反をしても賄賂を渡すと見逃してくれる国である。庶民からの税の徴収は極めて難しい。

賄賂を受け取る警官
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皮肉をこめて言えば、庶民は税金を支払っていない代わりに、賄賂としてお金を役人に渡さなければならない。ただ、現状のシステムは著しく透明性に欠ける。そして不公平でもある。

政府にお金がない理由をもう一つ付け加えておく。それは、日本などのように政府が赤字国債を発行できないことだ。インフレとドン安が怖いために政府は借金の上限を低く抑えている。国債発行残高はGDPの60%以下にしなければならない。これも政府にお金がない理由になっている。

このような状況が続けば、人々の共産党に対する信頼が低下し、共産党政権が崩壊してしまう。そんな危機感がグエン・フー・チョン書記長を汚職退治に走らせた。2016年に第二期目に入ったグエン・フー・チョン書記長は、汚職退治を開始した。それは、中国の習近平が2012年に共産党書記に就任して始めた汚職退治とよく似た動機である。

そして、汚職退治と言いながら、それを利用して政敵を排除するという構図もそっくりである。ベトナムでも中国でも許認可権を持つ者は、多かれ少なかれ汚職をしている。その気になれば誰でも捕まえることができる。民衆から恨みを買っている政治家や官僚を逮捕すれば、民衆は喝采を上げる。それは共産党体制の維持、引いては書記長自身の権力基盤の強化につながる。

汚職は賄賂から不動産開発へ

2016年から汚職退治が激しくなったが、それでも官僚や政治家は汚職をやり続けた。それは先に書いたように公務員の給与が安く、正規の収入だけではよい暮らしができないためである。

汚職摘発が行われている最中に賄賂を貰うことは極めて危険な行為である。汚職として摘発されれば、政治家や役人は残りの人生を失う。そこで考えついたのが、不動産の事前購入である。どの国でも不動産開発は汚職の温床と言ってよい。それは土地の取得や建物の建設には多くの許認可が付き物だからだ。

直接現金を授受する汚職が難しくなってから、ベトナムの政治家や官僚は不動産の事前販売によって利益を得ることにした。それは中国の真似とも言える。