ベトナムの好景気は見通せなくなった
そんなベトナムで公務員の大量退職が始まった。その数は明らかになっていないが、国家公務員も地方公務員も大量に退職しているとされる。その噂は本当だろう。
ベトナムの官僚は、2016年から始まったチョン書記長による汚職退治を、最初は一時的なものと考えていた。首をすくめて嵐が通り過ぎるのを待っていた。しかし、待っても、待っても汚職退治が終わることはない。
そのために不動産の事前販売を利用して利益を得るシステムを考え出したのだが、バブルが崩壊して、それも行き詰まってしまった。このような状況で、安月給の公務員に留まる理由はない。それが大量退職の理由である。
どの組織も同じであるが、このような状況になると優秀な人間から退職する。それは他の分野でも生きていけるからだ。能力の低い人間だけが公務員に留まり、その結果として、これまでも非効率だった役所の業務がなお一層非効率になったと言われる。
ベトナムの先行きを見通すことが難しくなっている。米中対立によって中国から工場が移転してくるために好景気が続くとの見通しがあったが、不動産バブルの崩壊はそれを帳消しにしてしまった。
ベトナム政府の能力は一層低下する
筆者は、現在行われている汚職退治には問題があると考えている。それはベトナムの公務員の給与が安く、かつ中国の公務員のように公務員宿舎などのフリンジ・ベネフィット(給与以外の利益・報酬)も少ないからだ。ベトナムの政治家や公務員は、汚職をしなければ社会をリードする人間としてのプライドを保つことができない。
チョン書記長は汚職退治を行うだけで、公務員の待遇改善には興味がないようだ。チョン書記長を、いたずらっ子に対して「悪いことをしてはいけない」と声を張り上げる小学校の先生のようだと評する声がある。人間は倫理観だけでは動かない。
チョン書記長は党の理論畑を歩み、マルクス・レーニン・ホーチミン思想研究の第一人者とされる。彼は清貧であったホー・チ・ミンのような生き方を共産党員に求めている。しかしベトナムは豊かになった。そんな時代の公務員に清貧を求めることはできない。
今後、公務員の大量退職がいつまで、どの程度の規模で続くかを見通すことは難しい。しかし、それによって、これまでも力量不足が指摘されていたベトナム政府の能力が一層低下することだけは間違いない。ベトナムの将来を楽観視することはできない。