ベトナムとはどんな国なのか。『日本人の知らないベトナムの真実』(扶桑社新書)を書いた川島博之さんは「ベトナムの公務員は民間に比べて給料が安く、それが汚職の温床になっている。例えばハノイやホーチミン市の部長クラスでも月給7万円ほどで、賄賂なしでは生活していけない」という――。
机の下で封筒を渡す
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ベトナムに赴任したビジネスマンを悩ませる汚職

ベトナムに赴任したビジネスマンが最も頭を悩ませるのは、蔓延する汚職に関することであろう。ベトナムの役所で許認可を得る際には賄賂が必要であり、賄賂なしに許認可を取ろうとすると膨大な時間がかかる。そんな噂があるが、それは概ね事実である。だが、日本の本社は賄賂を認めない。さてどうするか……。大いに悩むことになる。

汚職が横行しているのは事実であるが、世界を見渡した時に、現在のベトナムは汚職天国と言えるほどではない。2022年の汚職指数では、180カ国の中で77番目であった。半分より上にいる。1位はデンマーク、2位はフィンランド、3位はニュージーランドと人口が少ない先進国である。ちなみにドイツは9位、日本はベルギーや英国と並んで18位。フランスは22位、米国は24位、韓国が33位、中国は65位である。

ベトナムより下位にはインドの85位、ブラジルの95位、タイの101位、インドネシアの110位、フィリピンの116位が並ぶ。ベトナムは自慢すべき水準ではないが、言われているほどひどくはない。開発途上国では汚職は行政の一部を成していると考えた方がよい。

ベトナムの順位が上昇したのは、2016年から始まったグエン・フー・チョン書記長による汚職退治の結果と言ってよい。それまでのベトナムは、タイやインドネシアと同じような水準にあった。

ベトナムで汚職が根絶されない理由

ベトナムの汚職は、改善されつつあるとは言っても根絶されたわけではない。しかし、摘発が怖いために、露骨な賄賂の要求は減っていると言われる。

ベトナムで汚職が根絶できない最大の理由は、公務員の給与が安いためである。ハノイやホーチミン市の役人の月給は、部長クラスでも500ドル(1ドル140円で計算して7万円)、役職のない公務員は300ドル(4.2万円)程度とされる。

現在、ハノイやホーチミン市では、夫婦2人と子供1人の世帯は最低でも1カ月に10万円程度ないと暮らしていけないと言われる。夫婦共稼ぎが普通としても、公務員の給与だけで生活していくのは苦しい。このことが、公務員が汚職を行う最大の原因になっている。