救急車の有料化も早急に検討すべき

本当に治療が必要な人だけに来院してもらうには、救急車の有料化も検討したい。救急車は消防庁の管轄であり健康保険とは直接関係がないが、無料の行政サービスであるせいか、タクシー代わりに呼ぶ不埒な患者もいる。

1回の出動で約4万5000円の諸経費がかかる。

救急車が原則無料である国は、日本を含めて、ごく少数派で、多くの国では有料である。アメリカの場合は公的な救急車に加えて、民間の救急車も活用されているが、両者ともに高額である。そのため、多くの人は自分で入っている民間保険でカバーする。

日本も救急車を有料サービスにすれば、ただの風邪で呼ぶ人はいなくなるし、自力で行くなら受診をやめようと考える人もいるに違いない。やりすぎると本当に治療が必要な人が受診抑制するおそれがあるが、適切な制度設計で軽症者をふるいにかけるべきだ。

薬の問題も無視できない。軽症者が病院に行く理由の一つに、「ドラッグストアで市販薬を買うより、医者に処方してもらったほうが安い」というものがある。実際、私が処方される花粉症薬は、同じものが市販薬として売られているが、医者から処方箋をもらって調剤薬局で購入したほうがはるかに安い。

安いほうが医療費抑制につながると考えるのは間違いだ。安く感じるのは、窓口で自己負担分しか払っていないからである。1割負担だとしたら、残りの9割は健康保険から支払われている。見えないだけで、保険料や税金の間接的な負担分も含めれば実はもっと高い。

この仕組みを理解せずに自己負担分だけに気を取られ、「どうせ安いから」と多めに薬をもらう患者が後を絶たない。しかし慢性的な病気は別にして、一過性の病気は薬を飲み切る前に治るものだ。その結果、多くの家庭で残薬が山になる。このムダが国民皆保険制度を危機に陥れる一因になっている。

医療費を抑えるには、患者が自分で治療するセルフメディケーションを推進したほうがいい。市販もされている薬なら、患者がそちらを選びやすいよう、処方薬と薬価のバランスを取る必要がある。たとえば市販もされている薬を病院で処方してもらうときは自己負担率を上げるのだ。低所得者など経済的に厳しい人は自己負担率を維持するなどの配慮をすればいい。

治療しても治らない病気に関しては、いっそ薬を保険から外してもいい。花粉症は薬で症状が軽くなるものの、完治はできず、逆に放っておいても死に至るわけではない。胃潰瘍も同様で、昔はストレスをなくさないと完治しないと言われた。この種の病気は、病院や製薬会社にとって薬を処方し続けられる打ち出の小槌である。

しかし、いまや胃潰瘍はピロリ菌の除菌で治るようになった。にもかかわらず、一部の病院は打ち出の小槌を振り続けようとする。歯科の虫歯も同じで、いまやフッ素で予防できるのに、日本の歯科はいまだにドリルで穴を開けることで儲けている。最先端治療で完治や予防できるものは、そちらだけを保険対象にして、気休め程度に処方され続ける薬は対象から外すべきだ。

そういった改革を進めると病院の経営が悪化して廃院になるという声もあるが、そこも株式会社化でクリアできる。海外は株式会社が運営する病院が多く、経営力がない病院は大きな病院に買収されていく。アメリカでは、HCA(ホスピタル・コーポレーション・オブ・アメリカ)などの大手がフランチャイズ化を進め、数社の寡占状態だ。

大企業グループになれば、グループでノウハウの共有や、デジタル投資が容易になる。また、MRIやCTなどの高価な医療機器はセンターに集約できることも大きい。日本の病院の多くは、中小企業規模程度の医療法人しか経営できないのに、自前で高額な医療機器を入れるため、投資回収目的で、「念のためにCTを撮りましょう」とムダに稼働させることになる。

実際、健康保険を完全デジタル化し、サーバーを通じて病歴や診断歴を共有できれば病院を変えるごとに同じ検査をする必要もなくなる。自分の診断装置でないと点数にならない、という矛盾を取り除けば、医療費は劇的に削減できる。

株式会社化を全面解禁してM&Aを容易にすれば、病院経営はもっと効率化できる。前述のような改革で病院側の利権をなくしても、十分にやっていけるはずだ。

今回提案した改革を実行すれば、不便になる患者や利益が減る病院も出てくるだろうが、皆保険崩壊のダメージは比にならないほど大きい。患者、病院、製薬会社、みんなが少しずつ我慢をして、世界に類を見ない素晴らしい仕組みを支えていきたいところだ。

(構成=村上 敬 写真=時事フォト)
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