ムダを削れば医者や看護師も楽に

誰でも必要な医療を受けられる仕組みを維持するために、取り組まなくてはいけないことがいくつかある。

まずは病気の再定義である。日本は治療すれば治るもの、放っておいても治るもの、治療しても治らないものを区別せずに公的保険で面倒を見ている。しかし、公的保険が適用されるものは、治療すれば治るものに絞るべきだ。

たとえばゴルフで腰が痛いとか、テニスのやりすぎでテニス肘になったという人がいるが、これらの症状は安静にしていればたいてい自然に治る。こうした病気は、公的保険の対象から外して、どうしても診てもらいたい人は自費診療で受診すればいい。それだけで健康保険の財政は楽になる。

問題は、勝手に治る病気なのか、それとも放置すると危険な病気なのかの見極めが難しいケースだ。普通の風邪は寝れば治るが、体がだるいのは他の重篤じゅうとくな病気の症状だったということもある。生兵法は大けがのもとだ。

ここはテクノロジーの出番である。いまや体温だけでなく、血圧や心拍数といったバイタル情報をスマホやスマートウォッチなどで測定できる時代だ。それをもとにオンラインで医者とつないで問診を受ければいい。その結果、より詳しい診察が必要だと診断されたら、はじめて病院に行くのだ。

中国では病院に行く前のオンライン診療がすでに普及している。平安保険が提供するアプリ「平安グッドドクター」は、AIチャットで問診を受けた後に本物の医者につながる。普通の風邪なら、それでもう済んでしまう。「平安グッドドクター」の登録ユーザーは、日本国民より多い3億人。課金ユーザーも4000万人を超えている。

中国にはほかにもテンセント系「We Doctor(微医)」やアリババ系「アリヘルス(阿里健康)」、JDドットコム系「JDヘルス(京東健康)」が人気だ。日本も規制をさらに緩和して、病院に行く前にオンライン診療を受ける習慣を広めたほうがいい。

オンライン診療の利点は、患者を待合室で待たせないだけでなく、手の空いている医者に、オンラインの一次診療といった仕事を回すことができる。患者の数と医者の開業場所のミスマッチをネットで補完するという仕掛けだ。

忙しい医者も大助かりだ。これまで医者は時間外労働の上限規制の例外だったが、今年4月から適用になり、否が応でも働き方改革をせざるをえなくなった。看護師も人手不足が深刻であり、入院歴が豊富な友人は「最近、看護師さんは忙しすぎて、態度が冷たくなった」と嘆いていた。オンライン診療が普及してリアル病院に来る人が減れば、忙しい医者や看護師の負担は軽くなる。医療リソースの平準化という観点でも、オンライン診療は効果的だ。