イトーヨーカ堂が抱えていた2つの課題

イトーヨーカ堂とアダストリア2社の最近の状況を整理しました。改めて、なぜ2社は共同で動くことになったのか。

今回の協業のキーマンであるアダストリアの執行役員でビジネスプロデュース本部長の小林千晃氏に聞いてみました。

「セブン&アイさんの開発するモールにもテナント出店するなどしてGMSの衣料品平場は見てきました。残念ながらGMS衣料品平場に行くことはなかなかありませんでした。

しかし23年の会社創立70周年を機に、社外との協業やBtoBビジネスを拡大していく方針のなかで、社長の木村(治)とGMSの衣料品平場でアダストリアとしてできることがあるのではないかと話をするようになったのです」(小林氏、以下同)

アダストリアは、FOUND GOODオープンの1年半ほど前からイトーヨーカ堂と協議を続けてきたそうです。

ヨーカドーの一番の課題は食品売り場を訪れたお客さんの30数パーセントしか衣料品を購入していないという「買い回り率の低さ」にありました。

この買い回り率を高めるためには30~40代の客層を引きつけるための取り組みが必須だったのです。また、50~60代に偏り始めた店の客層をいかに若返らせることができるか。このふたつが課題となっていました。

イトーヨーカ堂としては、アダストリアだからこそ上記のふたつの課題を解決してくれると思ったのでしょう。というのも、

「私たちはイトーヨーカ堂でのFOUND GOOD開発以前に、GMSのイズミ(広島県)にSHUCAというレディスブランドを展開しています。さらに、ニコアンドやスタディオクリップなど、30~40代女性にも支持されているライフスタイルブランドを開発し運営しています」

イトーヨーカドー武蔵境店東館(2016年5月22日撮影)(写真=ITA-ATU/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

商品開発だけでなく接客も教える

「アダストリアが持つそうした知見をFOUND GOODで活かすために、商品企画からVMD、スーパーバイザーや接客のプロである各ブランドの店長経験者にいたるまで精鋭を送り込んでいます。全社あげて取り組むプロジェクトになっています」

イトーヨーカ堂の会議に出席することはもちろん、売り場を巡回しイトーヨーカ堂の従業員とともに売り場をつくったり、接客スタイルを教えることも取り組んでいるそう。

「これまで『接客は不要』とされていたわけですから、なかなか急な変革は難しくとも、徐々に呼び込みや声掛けをするなど接客法を変えていく必要があります」

ここまで本気で取り組む背景には、日本の流通小売り業No.1企業であるセブン&アイグループとの相乗効果を期待する部分はあるでしょう。もちろん、縮小が続くアパレル市場の中でGMSとの協業で安定的な売り上げを得る目論見も持っている(この点については追って詳しく述べます)。