今後、日本の職場にダイバーシティ(多様性)が浸透してくると、信頼性の重要性はますます高まる。個性の対立とどう向き合うかという試練が日常的に起こるはずである。そのとき信頼に基づくコミュニケーションが成り立たなければ、活動は大きなロスを生む。
リーダーは対立を避けることなく、むしろチャンスと捉えるべきである。もし自分の考えと合わない意見がメンバーから出てきたらどう応じるか。対立する意見を頭から受け容れないリーダーには、誰しも口を閉ざすものだ。
会議の場でA案とB案が提出されたときは、どちらか1つを選ぶのではなく、対立を避けて妥協案をつくるのでもない。お互いの違いを認めたうえで融合するという思考が求められる。
画期的な製品を数多く生み出したことで有名な米IDEOは、1990年代に「21世紀に持っていけるショッピングカートをつくろう」というプロジェクトを立ち上げた。従来のカートは大きくて頑丈なため、傾斜のある場所で人や車を傷つけるなどいくつもの問題があったからである。
このプロジェクトには社内の人たちだけでなく、消費者や学者など多くの人が参加し、安全性、使い勝手、デザインなどさまざまな観点から複数の案が出された。最終的に、従来の角ばったフォルムではなく、丸みのあるスマートなカートが誕生した。それはすべての案に見られるアイデアが活かされ、しかもどの案とも違うものになった。多くの関係者の意見に耳を傾けたうえで、第3の案に到達できたのである。
この事例と同様に、リーダーには、自分の考えを主張する前に、メンバーを理解するように努めることがまず求められる。メンバーとの強い信頼関係はそこから築かれるのである。