たとえばピンク色のル・クルーゼの鍋なら、テーブルにそのまま出しても様になるし、オープンキッチンのガス台に“さりげなく”置いてもおしゃれ。そうした生活シーンは、いわば「主婦のプレゼンの場」で、華やかなクライマックスだ。
女性誌でフォーカスされがちな麻布や成城で暮らす優雅なセレブ妻など、本当は少数派。かといって節約ばかりに勤しむ倹約主婦像も極端だ。大多数はいろいろな意味で「そこそこ」の普通の主婦で、2万数千円のル・クルーゼなら買えるし、その金額に見合う価値があると考えている。港北や浦安、埼玉などに住む30代主婦たちは、04年当時、すでにこうした価値観を共有しつつあった。そこで大給氏は、毎日の生活を彩るコミュニケーションツールを通した「そこそこの主婦たち」のコミュニティの場として「マート」を位置づけることにしたのである。
「楽しみ方」を変えれば商品の新鮮さを保てる
普通の主婦のコミュニティの場であるなら「生活者の実感」を反映させることが肝要だが、具体的にはどのように「生活者の実感」をとらえてきたのか。
「たとえばある読者モニターが、新しいハンドソープのデザインを見て『生活シーンを考えていない』『私が求めているのはこういうものではない』と言って、理由を説明してくれたことがあります」
手を洗う瞬間は生活くさくて憂鬱。だけど、ポンプ部分がピンク色だったら、ハンドソープを手に出す瞬間は楽しいと思う。この2秒間の気分を盛り上げてくれるデザインであってほしい。
「生活くささを受け入れているけれど、安くて汚れが落ちさえすればいいと、実用性だけを重視しているわけではない。僕はこの話を聞いたとき、ハッとしました。彼女たちに支持されるのは、行動の中に有機的に結びついたモノなのだ、と」