世界にまれな日本の礼金
賃貸借契約するにあたって礼金を取る物件がある。家賃の1~2カ月分が相場であるようだ。礼金とはその名の通り「お礼」だ。敷金と違って退去時の返金はない。礼金は昔からの名残で、長屋を借りるときや借金をするときは家賃や利息のほかに謝礼を払う慣習があったという。
借金については、現在はまったく見かけない。これは利息制限法により利息が制限され、またどのような名目であれ、利息換算するルールがあるからだ。そうしないと利息制限は意味がなくなる。一方、家賃については家賃制限法があるわけでもなく、契約自由を基本としているので、礼金が否定されず残ってしまっているのだ。
以前、日本に駐在する外交官から、「日本で住宅を借りるときの礼金が本国の理解を得られず困った」という話を聞いた。かなり特殊な制度だ。礼金を取らなかったり、少額になっているケースも出ていている。契約締結のお礼に金を払うのは現代の感覚にはなじまない。「礼金を規制しても家賃が上がるだけ」という意見もあるが、契約社会における取引条件の適正化という視点からいれば、やはりおかしい。家賃で勝負をするべきだと思う。
ただし、礼金ゼロならよいとは言えないのが不動産の難しいところだ。敷金・礼金ともにゼロ・ゼロ物件が一時流行したが、短期間で退去すると高額の違約金を請求されたり、少しでも家賃を滞納すると強制的に退去させられたりする事例が相次いだ。ゼロ・ゼロになった分、貸主はどこかで回収しようとするわけだ。
「原状回復の義務」は抜け道だらけ
敷金は家賃の1~3カ月分となるのが一般的だ。関西では保証金と呼称される。家賃の滞納、退去時の清掃や修復に備えて貸主が預かる金銭で、退去時に返金される性質のものだが、返金されなかったり、追加請求されたりするケースが大きな問題になってきた。
例えば、「4年間住んだあとの退去時に大家から、クロスの張替、カーペットの取替、鍵の交換、ハウスクリーニング等の費用を負担してもらうと言われ、高額な原状回復費用の請求書が届いた。敷金20万円(家賃2カ月分)だけでは足りず、不足分として7万円を請求されている」(川崎市消費者行政サイト参照)といった事例だ。
かつて民法には原状回復についての規定はなかったが、2020年4月1日に施行された改正民法では、「賃借人は賃借物を受け取った後に生じた損傷について、原状回復義務を負うが、通常損耗や経年変化については原状回復義務を負わない」と明記された。
賃借人が原状回復義務を負う範囲は、故意や不注意、または手入れ不足等で汚したり、壊したりした部分の修繕費用だ。タバコのヤニや臭い、ペットがつけた柱のキズ等は通常損耗・経年変化に当たらないとされる。